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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/幸福の美琴サンタ 第7章 後"日"談その1 12/25 AM3:12 雪 上条が目を覚まして最初に見たのはいつもの天井だった。 上条(はは、またこの病院か、……………ッ!!?) 一瞬で色々な事を思いだしガバッ!と起き上がる。 上条「美琴………よ、良かった。夢落ちかと思った!」 美琴は椅子に座り、上条が寝ているベッドに上半身だけ預けて眠っていた。 上条は一瞬怖くなって嫌な汗がどっと吹き出すのを感じたが、それを見てやっと安心する。 美琴「むにゃ…………あ、起きたぁ?…………と、当麻」 上条は時計を見る。午前3時を少し回ったあたりだ。 上条「おい、良いのかよこんな時間まで」 美琴「……と、とと当麻のこと置いて帰れるわけないじゃない。私はと、当麻のこっ………ここ、こ恋人なんだから!!」 美琴は死ぬほど顔を赤くしながら無理矢理そっぽを向いて妙な単語を口走った。 上条「えーと……………、でもほら、誤魔化せるのは12時までって言ってなかったっけ」 美琴「………………アンタ、私にだけ恥ずかしい台詞言わせておいて全部無視するわけ?」 上条「……自分から言ったんだろ。何だ、俺にも言って欲しいのかよ?」 美琴「べ、別に言って欲しくなんか無いわよ馬鹿!!」 上条「うわっ!だから病室でビリビリすんな、っつかやらないんじゃなかったのか!!」 美琴「もう12時過ぎたから無効ですよーだ」 上条「あー。何だか俺、お前のこと嫌いになりそう」 美琴「ッ!!??や、やだ!それだけは絶対やだ!!」 上条「わー冗談です冗談!!だから泣くな―――――ってはい!ごめんなさい全面的に俺が悪かっただから今すぐその青白い 電撃をしまって下さいー!!!」 叫びながら土下座モードへ滑らかに移行する。 看護婦「ちょっと、上条さんうるさいですよ!毎度毎度、今何時だと思ってるんですか!!」 いきなりドカドカと恰幅の良い看護婦が乱入してきて、二人仲良く怒鳴られる。 『お前の方が声デカイだろ』なんてツッコミは出来ずに上条は土下座モードのまま平謝りを繰り返した。 看護婦「今回はいつもに比べて軽傷で済んだみたいなので、起きたのならもう帰っても良いですよ」 言外に『さっさと帰れ』と言われているような気がするが、とりあえずその点には素直に喜んでおく。 二人は帰りの準備を整えることにした。 制服やコートは生乾きだったが、文句は言っていられない。 上条「あ、これ……結局俺の言ったとおりになっちまったけど、どうする?洗って返すってことでいいか?」 美琴に借りた手袋とマフラーはもはや泥まみれになってしまっていた。特にマフラーは展望台でも付けていたので酷い有様だ。 原型を留めているだけで上条的にはまだ良い方だとは思ったが、借り物としては相当マズイだろう。 美琴「それもアンタあてに作ったものよ。アンタが持ってて良いわ」 上条「へ?」 上条はポカーンとする。 美琴「鈍感」 上条「あ、…………」 やっと上条は気付いて、気恥ずかしくて頬を染める。 ちなみに美琴は初めから汚れるのを見越していて、最終的には上条へと無理矢理押しつけるつもりだった。 上条「ん、待てよ?ってことはこの可愛いらしい猫の刺繍が入った手袋は俺向けなのか?」 美琴「…………何か文句あんの?」 上条「いいえ。ありません」 真実の口の前なら嘘ー!!!とか言われそうだったが、別にこのくらい良いだろう。 美琴「駄目になったら言ってちょうだい。直すから」 上条「………そりゃ、助かる」 『TOMA(はぁと)』と書いてあるマフラーや、猫の刺繍がされた手袋と共に当分過ごすことになるのかと思うと、正直素直 に喜べなかったが、さすがにそれは贅沢というものだろうか。 上条「準備できたか?」 美琴「ん、オッケー」 美琴はクマのぬいぐるみが入った紙袋を掲げて応じる。 それを見て上条は先に歩き出す。 上条「んじゃ行くぞー美琴」 美琴「え、………ナニナニ、もう一回言ってみ?」 上条の隣まで小走りで駆け寄り下から顔を覗き込む。 上条「行くぞー御坂」 美琴「………………アンタ、私をおちょくってるわけ?」 上条「いえいえまさかそんなって、あ、雪降ってる」 美琴「話逸らすな!ってうわ、大雪ね」 それも粉雪ならまだ良かったが、霙に近い濡れ雪だった。 上条「傘持ってねえぞ俺は」 美琴「あ、それ、持ってって良い傘じゃない?」 美琴が指差した先には大きめの傘立てがあり、『ご自由にどうぞ』と書かれた木の板が掛けられいた。恐らく忘れ物か何かだろう。 上条はその傘立ての中をよーく観察する。 残りの傘の数―――1本。 大きさ―――小さめ。 結論―――相合い傘。 上条「………………」 美琴「………………」 上条「はぁ。まぁそうなるよな」 美琴「何で嫌そうなのよ」 上条「お約束過ぎてげんなりしただけだ」 上条が傘をさし二人でそれに入る。時間帯のせいか人がまばらであるのが幸いだった。昼ならさすがに恥ずかしすぎる。 二人はとりあえず常盤台中学の学生寮近くまで行くことにした。 上条「こりゃ明日は電車止まるかもなー」 美琴「………そ、そうね」 上条「っておい、もっと近づけ濡れるじゃねえか」 傘がそれほど大きくないので二人で密着しないと肩がはみ出てしまう。 それなのに美琴は少しずつ上条から離れていってしまい、それを少しずつ上条が追う。 さっきから真っ直ぐ歩けていない。 上条(こういうのが色々積み重なって、俺は嫌われてると勘違いしてたような気がする……) 美琴「は………恥ずかしいんだからしょうがないでしょ!」 午前3時過ぎとは言え、さすがは若者ばかりの学園都市であった。ぱらぱらとだが先程から通行人とすれ違っている。 よく見ると美琴の頬が染まっていた。 上条(何だかこいつ……………) 上条はやっとそこで美琴の行動原理が一部理解できた気がした。 上条(って待てよ。つーことは、アレも……アレも……それにアレも恥ずかしかっただけか??) これまでの二人の思い出で美琴の行動が理解不能だったシーンを漁ってみたら、『恥ずかしいから』で解けそうなパズルが そこそこ見つかった。 上条は美琴がどういう場合にどういう反応をして、どう考えるのかが無性に知りたくなってくる。試しに傘を右手から左手 に持ち替え、右手で美琴の肩を抱いて思い切り引き寄せてみる。 美琴「わっ、わわ!……い、いきなり何すんのよ!」 美琴の声が裏返り、顔がさらに赤くなる。。 正直上条もかなり恥ずかしいが、それを無視して美琴の反応を観察する。 上条「あ、あんま濡れると風邪引くだろ」 美琴「え、えっと、まぁ、そうね。その……アンタが言うなら、し、仕方にゃい……から……このままで、その………」 微妙に怒った様子でゴニョゴニョ言っているが、その口元は少しにやけている。 上条(……………もしかしてこいつって物凄く可愛い奴なんじゃ?) そう考えると今までの美琴の行動が全て可愛い物に見えてくる。 上条(いや、いかんいかんぞ上条当麻!さすがにその思考はマズイ。勘違いかもしれないし、勘違いじゃなかったら俺が美琴に 溺れちまう………) そうだ。こいつはいつもビリビリしてくる暴力女でもあるのだ。と考えて今まで攻撃された過去を振り返ってみたが、それは それで怖すぎたので心の中で思い出の箱をそっと閉じる。恥ずかしいからと言っていくらなんでもあれは無い。 二人はそのままほとんど無言で歩き続ける。 聞こえるのは雪を踏みしめる靴の音と、傘に雪が降り積もる音だけ。 感じるのは外気の寒さと、お互いの温もりだけ。 美琴「あ、ここで良いわ」 気付くともう常盤台中学の学生寮の近くまで来ていた。 そこからは見えないが、今歩いている道を少し行って曲がると見えてくるはずだ。 上条「ん、もうちょい行っても良いんじゃねえの?」 人目を気にするにしてもあと50mくらいは行ける気がする。 雪は濡れ雪から粉雪に変わってきたので傘は要らないだろうが、単に出来るだけ長く一緒に居たかった。 美琴「常盤台中の学生寮なのよ?これ以上近づくと私と誰かが一緒に相合い傘してるってことくらい感知できる子居るわよ」 上条「…………………軍事基地か何かかよ」 美琴「んな可愛いもんじゃないでしょ」 上条「…………………………………」 そんな魔窟のトップに君臨する美琴が今自分の腕の中に居るというのは一体どういうことだろう。世の中不思議なこともあるものだ と、それよりさらに珍種である上条が思う。 上条「ま、なら仕方ないな」 美琴「うん」 上条「今日も色々酷い目にもあったけど、楽しかったよ。ありがとな、美琴」 美琴「………うん」 上条「じゃ、またな」 美琴「あ……えっとちょっと待って!」 上条「ん?」 帰るために回れ右をしかけた上条を美琴が止める。 しかし美琴は何も言わず、両手を前で絡めてもじもじするだけだった。 上条「何だ?」 美琴「え…………っと、あ、そうそう!携帯。アンタの携帯貸して。直した方が良いでしょ?連絡取れないのは困るし……」 上条「あ、ああそだな」 そう言って上条は美琴に携帯を渡すと、美琴はそれをいじり始めた。 上条「と言っても俺の場合は携帯に頼りすぎるのも危ない気がするなー。その携帯も中々タフだけど、いつ壊れるか分かんねえし……… お前の電話番号は控えておこうと思うけどさ、最終的にいざとなった時は自販機前で落ち合うってことでどうだ?」 美琴「んー。まぁ良いんじゃない?更にいざとなった時は私がアンタんちに直接行くわよ」 上条「それは何かと助かる。俺が寮に出向くのはまずいだろうし……」 前回は美琴が心配だったからとは言え、よくそんな魔窟に突入したものだと上条は思う。 知らぬが仏とはよく言ったものだ。 美琴「はい、完了。何だってそんなヘンテコな設定になってたのよ」 上条「んー?俺はいじったつもりねえんだけどな」 大方偶然どこかが壊れたか、寝てる間に偶然押してそうなったのだろう。上条にしてみればよくあることだ。 上条「とりあえずサンキュ。じゃな!」 美琴「あっ!………あの………さ……………」 上条「??」 再び呼び止められたが、美琴は先程と同じように、妙にもじもじするだけだった。 目線を下に落し、たまにチラチラ上条の顔を見て頬を赤らめている。 上条(………………………………………いやいや、まさか) 脳裏をチラッと横切ったその予想を振り払おうとする。 上条(……………無い無い。上条さんよ、それは酷すぎる妄想だぜ?) 美琴の表情は照れたようなものから、徐々に不満げに変わっていく。 上条(でも……………) 美琴にだけはその『自分にとって都合の良い予想』が通じるのである。 試しに鎌をかけてみることにした。 上条「まったく、しゃーねえな」 そう言って頭を掻きつつ一歩美琴へ近づく。 上条「目、閉じろよ」 そう言うと美琴は待ってましたとばかりに目を閉じ、少し上を向いた。 上条(ドンピシャですか美琴さんッーーーーーーー!!?) 上条の予想は大当たりしたようだった。どうやら美琴は『お別れのキス』を暗に求めていたらしい。 上条(いや、待て待て。だってここ、そこそこ人通りあるぞ!?恥ずかしいんじゃねえのかよ!!) 今の美琴の理屈としては『恥ずかしくてたまらないけど、アンタが求めるなら我慢するわよ。さっさとしなさい』である。 しかしそんな高度なことが解かるわけがない上条は混乱し、焦る。 美琴はじっとその体勢を変えないので、今更やめようだなんて言うことは出来ない。 雪が降るほど寒いのに汗がタラタラ流れてきた。 上条(………う、仕方ねえ!) チュッ―――と、軽くおでこにキスをする。 美琴は目を開けると、半分嬉しそうな、半分不満そうなよく分からない顔を上条へ投げかける。 上条「お、俺だってこんなとこで恥ずかしいんですぞ姫」 視線を少し逸らして弁解した。 これは癖にさせちゃダメだと上条は固く心に誓う。 美琴に告白する覚悟はあったが、『外で中学生にキスしてる凄い人』として吹聴されるだけの覚悟は無い。 美琴はそれでやや諦めたと言うような顔をする。 美琴「私も、今日は楽しかった。また今度、あのゲーセン行きましょ。もっと凄いのもあるから」 上条「……………あれ以上ってそろそろ法に触れるだろ。ま、気が向いたらな」 とりあえず新作機種だけは頼まれても絶対しないだろうが。 美琴「それじゃ、またね。おやすみ……当麻」 上条「おう。おやすみ美琴」 今度こそ上条は来た道を戻る。 少しして振り返りたくなったが、何度も振り返ると美琴が帰りにくいかなと思い、ただ前を見て進む。 50メートルくらい歩いてそろそろ良いだろうとようやく振り向くと、しかし美琴はまだ上条を見ていた。 上条(ったく、風邪引くだろうが、早く帰れ!) ジェスチャーで伝えると、満足したのかようやく美琴は上条と逆方向へ歩き出した。 上条(まるでまんま恋する女の子だな。キャラ変わりすぎだろ) どちらが美琴の素の姿なのだろうか――――なんて、考えるまでもないだろう。 上条も再び自分の家目指して歩き出す。 上条「しかしまだ降んのかよ。すげぇ雪」 それでも不思議なことに寒いとは思わなかった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/幸福の美琴サンタ
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/幸福の美琴サンタ 第5章 ゲームセンターでの攻防、真実と嘘 12/24 PM9:36 薄曇り その後どうにか手を離した二人は、ベンチに座りだらだらとしていた。 しかしどうにもさっきの一連のことが頭をちらついてしまい、二人の会話も妙にぎこちない。 ついにその空気に耐えられなくなった美琴が立ち上がり「ゲームで勝負よん」と上条に不敵な笑みを投げかけた。 同じく空気に耐えられなかった上条もそれに乗ることにする。 ―――レースゲーム ゲームセンター慣れしてる美琴に上条が勝てるわけもなく、僅差であったが美琴の勝利。 これで美琴はかなり元気になる。 ちなみに僅差であったのは一生懸命運転する上条の方をチラチラ見ていたせいだ。 美琴(写真、撮っておきたいわね……) というところまで考えて、思考パターンが黒子っぽいことに気づき一人で絶句。 ―――コインゲーム ビデオポーカー、不正行為無しなのに美琴が一発目にロイヤルストレートフラッシュを出す。美琴の勝利。 スロット、不正行為無しなのに美琴が一発目に大当たりを出す。美琴の勝利。 その他諸々、同様。 いつも通り上条は不幸である。 さすがに美琴は上条が不憫になり、少しだけ慰める。 とはいっても上条の方はいつものことなのでさほど気にしていない。むしろそういう風に気を使われることが嫌なようだった。 ちなみにコインは数枚だけ抜き取り、他は専用機で電子カードに蓄えた。 上条「お前……まさかそれは一体何に使うものなんでせうか」 美琴「レールガン用」 その中の何枚かが自分に向けられることになるのだろうか、と考え上条は憂鬱になる。 美琴「アンタと一緒にいると何も当たらないって訳でもないのね」 上条「まーな。運絡みのゲームで知り合いと対戦すると、俺以外が大勝ちして嫌な空気になるんだよ。対戦じゃないと何も 当たらなくて嫌な空気になるんだけどな。あ、でも俺と対戦すれば大勝ちするからっつって俺を連れてきた奴は 大負けしてたな。結局嫌な空気になるってわけだ。ははははは……………はぁ」 美琴「………じゃぁ、それに対抗できるのは、アンタと居るだけで楽しいって人くらいってことか」 上条「んー?あー、確かにそうかぁ。結局俺とゲーセン来る奴って、単に話してるだけで面白いような輩だけだな」 美琴「………………」 上条「御坂センセー的には今の楽しさ評価はいかほどで?」 美琴「………………し、知らないわよそんなの自分で考えろ!」 頭をグリッと無理矢理回してそっぽを向く。 上条(はぁ…………やっぱ俺ってまだ嫌われてんのか?まさか生理的に受け付けないとか??全く分かんねえ) ―――格闘ゲーム 美琴が得意なゲームでは美琴が速攻で勝利。 上条が得意なゲームでは上条が姑息なハメ技で辛勝。 結果一勝一敗。 先程のことがあるので美琴はハメ技について責めることができず、若干イライラする。 しかも上条の使用したのが巨乳キャラだったのでさらにイライラする。 美琴(はぁ…………やっぱこいつってこういう属性好きなのかしら) ―――音感ゲームその1:ボタンを叩くオーソドックスなタイプ そもそも勝負にすらならず、美琴が上条に教えることになった。 要領が掴めない上条にイライラし、ついには上条の手首を持ってバタバタ動かし始める。 上条「だーもう分っかんねー!!つか、音楽経験者に勝てる気がしねえよ」 美琴「難易度上がるとそんなの関係無くなるわよ。ただの反射ゲームみたいなもんじゃんこんなの」 上条「反射神経には自信あるんだけどなぁ」 美琴「うーん……あ、命が掛かってないからじゃない?」 上条「……………………納得しかけた自分を殴りたい」 ―――音感ゲームその2:ジェスチャーを読み取るダンスタイプ 途中までは美琴が圧勝していたが、途中から上条が巻き返し勝利。 理由はレースゲームの時同様、美琴が上条の方をチラチラみていたせいだ。 その後上条に無理矢理一人でやらせてみる。 最初は爆笑しながら上条が踊るのを見ていたが、やがて静かになり、最後にはぽーっと見蕩れてしまっていた。 美琴「ま、まぁ初めてにしては上出来じゃない」 上条「ホントか?何でだろうな、もしかして才能あるのか俺」 美琴「うーん……あ、体を自由自在に動かせないと命が幾つあっても足りないからじゃない?」 上条「……………………さっきも思ったが、テメェがそれを言うな」 ちなみに上条がプレイ中美琴はこっそり携帯でそれを撮りまくった。 しかしゲームセンター自体それほど明るくないため、全て思い切りブレていた。 美琴(………デジカメ買おうかしら) 頭の中で何かと何かが葛藤を始める。 ―――エアーホッケー 好勝負だったが、上条の勝利。 上条「やっと真っ当に勝負して真っ当に勝った気がする。伊達にお前の電撃を何度も防いでねえよ」 美琴「考えてみたら恐ろしい反応速度よね。もう意識を介さないで脊髄反射してるんじゃないの?」 上条「そうかもしんねえけど、全然素直に喜べないのは何故なんだろう」 その他最新すぎてよく分からないゲームなど数種で対戦した。 さすがの二人も徐々に疲れてきたので、徐々に対戦という名目からずれていく。 ―――おみくじ勝負 上条「最新技術を使った超高精度おみくじシステム………って、色んな方面に喧嘩売ってねえかこれ。何がどう最新で技術なんだよ」 美琴「アンタってやっぱこういうのはやらないわけ?」 上条「やらねえな。例え引いて大吉が出たところで何かが変わるわけでもないし」 美琴「気分ってのもあるんじゃないの?それに色々細かいとこまで書いてるのとかあるじゃん?」 上条「そう言うお前は信じてんのか?」 美琴「んー、科学技術の結晶たる私が信じるってのも変でしょ」 上条「まーな。って、じゃぁ俺にくれたお守りは何なんだよ」 美琴「だから気分よ。あ、でも、私一回大凶ってのを見てみたいのよね。ねえねえ引いてみてよ」 上条「…………………お前さらっと酷い事言ってません?」 美琴「信じてないんなら良いでしょ。ほらさっさと引く」 上条「………ったく、はいはい」 上条は仕方なしに神社の形をした小さめの機械に20円を投入する。 ややあって、何のギミックも無しにポロッと巻物状の小さい紙が神社の扉から出てくる。 上条はそれを取ると中を開いた。 上条「あれ?」 美琴「なになに?」 美琴は上条の手元を覗き込む。 美琴「何これ、真っ白?」 上条「あーはいはい、バグだろ。20円飲み込まれて終わり。一番萎える展開だよなぁ」 上条は天に『お前の運勢なんか知らねえよ』と言われたように感じて少し悲しくなる。 上条「試しにお前も引いてみれば?」 美琴は言われたとおり引いてみる。 中を見ると中吉と書かれて、詳細が読みやすいように現代語で書かれている。 上条「何だこりゃ、分かりやすい代わりにありがたみゼロだな。占いっつうより予報」 美琴は真っ先に恋愛運のところを見た。 恋愛運………○ 7日以内に変化がある可能性が高く、32%です。その時できるだけ勇気を持って行動しましょう。 良い方向に進む確率が12%上昇すると思われます。今年全体の恋愛運については、不確定要素が強く 判断が付きません。ただし、待つより積極的に行動した方が相対的に9%良い結果が得られると思われます。 美琴(積極的とか勇気とか、できるならやってるっつうの) 美琴「アンタももう一回引いてみれば?」 上条「いや、多分またバグる気がするからいいよ」 美琴「んじゃ私が引いてあげるわよ」 上条「それ、おみくじ的に良いのか?」 美琴は再び引いて、それを上条に渡す。 今度はきちんと書いていて、大吉であった。 美琴「あれ、意外」 上条「いやそうでもないみたいだぞ。詳細のところがボロクソ。何でこれで大吉なんだよ」 詳細にある基本運、金運、仕事運などがあらかた×になっている。唯一恋愛運が◎になっているだけだった。 自然とそこに目が行く。 恋愛運………◎ 7日以内に変化がある可能性は不明。その時どうなるかは不明。良い方向に進むか、悪い方向に進むかは不明。 今年全体の恋愛運については、不確定要素が強く判断が付きません。ただし、今一番近くにいる知り合いの 女性を大切にすること。 美琴「何て書いてあるの?」 美琴が再び覗き込もうとしてきたので、上条は慌ててそれをクシャクシャにし、ポケットにしまってしまった。 美琴「ちょっ!見せてくれたって良いじゃない!」 上条「………………くっだらねえことばっか書いてたから見なくていい」 慌てたのを気取られないようにだるそうに言った。 ―――景品GET勝負 上条「もはや勝負でも何でもなくないかそれ」 美琴「まあそうなんだけどね。ものは試しにと思って」 美琴はとあるゲーム機の中にある猫のキーホルダーを取ろうとした。 そのゲーム機はボタンを押すと回転している矢印が止まり、矢印が差す部分の点数が加算され、それが5点溜まると景品が 貰えるというシステムであった。 美琴は100円を投入し、チラッと上条の方を見る。 美琴「アンタ、これが取れたら一緒に喜んでくれる?」 上条「へ?まあ、うん。何だ藪から棒に」 それを確認すると美琴は上条の方を向いたままボタンを押す。 結果、矢印はマイナス5を差しハズレ。 もう一度100円を投入する。 美琴「もし次に当たったら、アンタに美人のお姉さん紹介してあげる」 上条「はい??」 ボタンを押す。はずれ。100円を投入。 美琴「もし次に当たったら、アンタに何でも好きな物買ってあげる」 上条「あー」 ボタンを押す。はずれ。100円を投入。 美琴「まぁ予想通りね。次に当たったら、アンタを思い切り殴るわ」 上条「そう言うことか」 ボタンを押す。はずれ。 美琴「あ、あれ?…………何だ、アンタの不幸もこんなもんか」 上条「本気じゃないからじゃねえの?前に同じ事やった奴が居たんだけど、その時は当たったぞ。しかもその後その馬鹿は 本当で殴ってきやがった。返り討ちにしたけどな」 美琴「………………………」 無言で100円を投入。 美琴「もし次に当たったら……うーん……今日はもう帰りましょう」 上条「………」 ボタンを押…………せない。 美琴「ちょっとたんま!今の無し!」 上条「一人で何やってんだ」 どうやら美琴的にはまだ帰りたくないらしい。 美琴「もし次に当たったら………………えーと、あ、アンタに抱き付く」 上条「へ?」 ボタンを押す。大当たり。 テッテレーと軽快な音楽と共に景品が落ちてきた。美琴はそれを拾いあげる。 美琴「ふーーーん」 上条「ちょっと待て何で俺を睨む!こんなのただのランダムだろ!!っつか、どうせ本気じゃねえんだろそれも!?」 美琴「ええそーよ。本気じゃないわよ。………ま、いいけどねー。別に私は!」 上条「何怒ってんだよ。抱き付きたいのか?」 美琴「ち、違うわよ!!そうしたらアンタは不幸なんでしょ!!」 上条「だからんなことねえって!」 美琴「それじゃ幸せなわけ?」 上条「え?……………………………………さ、さあ。ドウデショウ」 上条(マズイ、またこの流れか) 美琴「………………………………」 ??「みーさっかちゃん!」 後ろから肩を叩かれて、美琴は振り向く。 美琴「え?ああ、店長じゃん、久しぶり」 店長と呼ばれたその女性は20代後半に見えた。 セミロングの黒髪は後ろに束ねていて、何故かこの場に似つかわしくない白衣をまとっている。 ほんわかした優しそうな雰囲気なのに、眼鏡の奥に光る瞳だけは妙に鋭い印象があった。 店長「店長じゃなくて管理責任者だっての。まぁ実質的には店長だけど。御坂ちゃんは今日デート?」 美琴「ふぇっ!?あの、ち、違います!全然、違います!!」 店長「あら、そんな思いっきり否定しなくても良いじゃないの。彼氏もそんなこと言われたら悲しいわよねぇ」 唐突に話を振られて二人の会話をぼーっと見ていた上条が焦る。 上条「えっ!?お、俺は、彼氏とかそんなんじゃなくて……なんつーか……今日は頼まれ事されただけでしてはい」 美琴「そ、そうそう」 店長「ゲーセンで頼み事?」 美琴「別の場所でそれはもう済んでしまって、ゲーセンはそのついでに…………」 店長「なら今はデートでしょう?」 上条「…………………」 美琴「…………………」 言い返せないで二人は黙ってしまう。 確かにこれまでの流れは誰がどう見たってデート以外の何物でもないだろう。 店長「あ、ごめんごめん。そんなつもりじゃなかったの。ちょっと御坂ちゃんに新作機種をやって欲しくて声を掛けたんだけど」 美琴「えーまたぁ?」 実験的なゲームセンターであるため、必ずしも全てが面白いというわけでもなく、人気にかなりばらつきが出る。 そうなると不人気機種は必要なデータが取れず、研究としてはかなり問題となるのだ。 そのため、店長や店員が美琴にテストプレイをお願いすることは過去にも数回あった。 美琴(大抵面白くなかったり、意味不明だったり、危なかったりするから遠慮したいんだけど) 店長「そうなの。皆やるのを躊躇っちゃって。でもゲーセンマスターの御坂ちゃんならきっとできるって思って。丁度二人用だしさ、 もう御坂ちゃんしか頼れないのよー」 店長は手を合わせて拝むようにお願いする。 上条と美琴は二人で顔を見合わせたが、お互い気まずくてすぐに顔を戻した。 上条「そもそも俺、そんなゲーム強くないっすよ?」 店長「あ、そう言う系じゃないのよ。難しくもなんともないわ。何て言うかお願いできるような二人組ってのが中々居ないの。 もうすぐ閉店だし、今月中に何とかあと数件はデータ取らないと学会まで間に合わないって上司から言われるし……… あ、タダとは言わないわ。最上階の展望台の入場券二人分あげるからさ!ほんとお願い!!」 やや涙目になりつつお願いされ、そこまで断る理由も無い二人は仕方なく了承した。 店長は喜んで二人を案内する。 その先には飾り気のない白黒模様の小さな部屋があった。入り口は暗幕のようなものが床まで垂れていて中の様子は見えない。 それをくぐって中に入ると、3人くらいは余裕では入れそうな薄暗い空間に、一つの台、二つの椅子、二つのヘッドセットの ような物があった。台には幾つかのボタンがついている。 また、壁には何やら土色をした大きな顔のモニュメントが飾られていて、その両脇にディスプレイが掛けられている。 美琴(ん?何だっけこれ、どっかで見たことある気が………) ヘッドセットのようなものは頭の部分で脳波を測定するらしく、店長が二人の頭に載せてくれた。 上条の頭に載せる際に、屈んだ店長の胸が思い切り見えてしまい、上条は思わずそれに釘付けになる。 上条(で、でかい……) 数秒固まった後、ハッと我に返り他の方向を向いてやり過ごした。 その動きを終始見ていた美琴は若干不機嫌になる。 店長「それじゃ、後はお願いね」 そう言うと壁のコイン投入口に100円玉を一枚入れて簡単に入力をし、そのまま出て行こうとした。 美琴「って、これって何のゲームなのよ?」 店長「あれ、言わなかったっけ?まぁすぐに分かるわ」 そう言って出て行ってしまう。 次の瞬間、壁の大きな顔から「ハッハッハ」という老人のような声が鳴り出し、目が光った。 美琴「あ、思い出した!」 上条「?」 美琴「これ、真実の口じゃん」 上条「あー、ほんとだ」 その顔のモニュメントは、ローマにある『真実の口』の形をしていた。 真実「わしは真実の口、最新型嘘発見器じゃ。君たちの嘘は全て見抜くぞ。今からは全て真実のみ話すのじゃ!!」 上条「…………………」 美琴「…………………」 まずい!と二人は心の中で同時に叫んだ。 ―――嘘発見器勝負 真実の口が話した内容は次の通りであった。 このゲームは、最新型の嘘発見器を利用した対戦ゲームであり、各々7個の質問に答えなければならない。 その答えはヘッドセットのマイク部分から嘘発見器に入力され、真実度を測定される。 最も真実であることを言った場合プラス100ポイント、最も嘘であることを言った場合マイナス100ポイントが加算 され、その合計得点を争う。 マイナス40点からプラス40点はグレーと判断され、どちらでもないか、或いは真実も嘘も言っていないだけと判断される。 質問は相手からするか、真実の口がするかを選択できる。 質問する場合はボタンを押してから言う。 持ち時間は質問するまでが60秒、ボタンを押してからが20秒、回答時間が30秒である。 回答時間が0になったり、0ポイントを2回以上出したりすると、ペナルティーとして脳波から得られた現在の感情、真実を 言おうとしているか嘘を言おうとしているか、相手に隠していること、などなど知られたくないことを洗いざらい真実の口が 喋ってしまうので、なるべく無いようにとのこと(しかもこれは精度が悪いため間違ったことも結構言うらしい) 真実「さて君たち、準備は良いかな?」 上条「良くねえよ!!出ようぜ御坂……御坂?」 美琴「えっ、え、何?」 美琴はボーッと何かを考えていたようだった。 上条「何だ、また具合でも悪いのか?出ようっつったんだけど」 美琴「うーん。でも頼まれちゃったし、仕方がないんじゃないっかなー」 やや引きつった笑みを浮かべて返答する。 真実「それでは次は御坂さんの質問だ」 真ん中にある真実の口に質問させる用のボタンと、美琴の側にあるボタンが点滅しだした。 しかし上条はそれをチラッと見るだけで無視し、美琴の表情だけよく観察する。 上条「………………………………………」 ガシッ!と唐突に上条は右手で美琴の左手首を掴んだ。 美琴「ちょっ!何してんのよ。離っ、離せこの馬鹿!!」 掴まれた左手首をブンブン振り回すが、上条は離さない。 上条「御坂、お前さっき言ってたよな。ずるなんて簡単にできるって」 美琴「うっ………さ、さあ、言ったっけ?」 上条「……………まぁどっちでもいいけど、やるならどうでも良い質問でお茶を濁そうぜ。な?ここはお互い協力し合うところ ですよゲーセンマスター!」 美琴「その呼び方恥ずかしいからやめて。…………んー、ま、まぁそうね。わかったわ。適当に終わらせましょ。だから、とりあえず 手を離してもらえる?」 上条「それは断る」 美琴「……………」 幻想殺しで触られていたらチート行為は出来ない。 それにこの状態で普通に質問をするのはさすがに無謀と思われた。 もし仮に上条が「俺のこと好きか?」なんて聞いてきたら色んな意味でやばすぎる。 美琴(ちぇー。せっかく色々聞き出そうと思ったのに) 美琴はボタンを押す。 美琴「うーんと、アンタはカレーライスって食べる方?」 若干つまらなさそうにどうでも良いことを尋ねる。 上条「お、良い質問ですな。カレーか、普通に好きだぞ」 美琴「ッ!?」 真実「真実~!!!プラス100ポイント」 かなり適当に質問したため、あまり想定していなかった上条の台詞を聞いて背筋にゾクゾクと電気が走るのを感じた。 美琴(ず、ずっとこのパターンで行こうかしら) 上条「次は俺か……うーん、ま、何でも良いか。お前ってもしかして苺味が好きなのか?」 美琴「ストロベリー?うん。す………………う、うん」 真実「真実~!!!プラス98ポイント」 美琴(やっぱ駄目!こいつの顔まっすぐ見ながら好きとか言えるわけないじゃないのよ!!) 恐らく美琴が同じような質問ばかりすれば、上条の方も同じような質問をするだろう。 仕方ないので質問の流れを変えるべくあれこれ考える。 美琴「あ、そう言えば質問内容のおまかせも出来るのよね。やってみない?」 上条「うーん。何か嫌な予感がしないでもないけど、まぁいいんじゃねーの?」 美琴は真ん中にあったボタンを押してみる。 真実「ハッハッハ。ではわしから質問しよう」 壁にあるやや気味が悪い老人の顔が口も動かさずに喋り出す。 真実「君たちは今日、楽しんでるかね?では上条さん答えてくれたまえ」 上条「えっと、色々トラブルばっかではあるけど………まぁ楽しいかな」 チラッと一瞬だけ美琴の方を見て答える。 真実「真実~!!!プラス92ポイント……では御坂さん答えてくれたまえ」 美琴「私も大体同じ、そこそこは………楽しい、かも」 美琴はそっぽを向きつつ答える。 真実「真実~!!!プラス75ポイント」 この質問内容に二人は色んな意味で安堵する。 上条「何だ何だ、こいつにやらせた方がいいんじゃねえか」 上条は気軽に真ん中のボタンを押した。 真実「ハッハッハ。ではわしから質問しよう。君たちはお互い、異性として好みのタイプかね?では上条さん答えてくれたまえ」 上条「……………………………」 美琴「……………………………」 恐れていた事が起きてしまった、と二人仲良く固まる。 上条(ちょ、ちょっと待て、気まずい。恋人同士でもない男女のにそういう質問はタブーではないでせうか) 上条は美琴に『弱っちまったな』といった風の視線を投げかけてみる。 しかし美琴はそれに気付かないようで、上条の方をチラチラ見たり、興味なさそうにそっぽを向いてみたりと、かなり 忙しそうにしていた。 上条(えーと……………どう答えれば良いんだ?) ここでYESと答えて、嘘と判定されると美琴は怒るだろう。 逆にNOと答えて、嘘と判定されるのは正直かっこ悪すぎる。 結局正直に答えるしかないのだが…… 上条(御坂がタイプかどうかなんてわかんねえよ。っつうかそう言う対象じゃねえだろ、ねえってことでお願いしますよ。あー まずい、意識すると変な気分になりそう。まずい) 仕方ないので考えるのをやめてその胸中を正直に答えてみる。 上条「えっと、分かりませんです」 真実「嘘ー!!!マイナス45ポイント……では御坂さん答えてくれたまえ」 上条「えっ、アレ??」 上条は混乱して慌てる。機械がバグったんじゃないだろうか。 これおかしいぞ!と訴えるように美琴の方を見ると、美琴は汚い大人を見るかのような目で上条を見ていた。 上条「あ、やめ、やめて下さい。そんな軽蔑した目で見ないで。心が痛い」 美琴「アンタってそう言う奴なんだ。ふーん。まぁアンタの好みはあの店長みたいなのなんでしょ」 上条「へ?い、いやちげーよ!」 美琴「はいはい私はどうせガキでお子様でゲコ太好きよ。悪かったわね。あ、私も『分からない』わ。ていうかアンタがタイプ かどうかなんて正直どうでも良いっての」 真実「嘘ー!!!マイナス100ポイント」 美琴「……………………………………」 上条「……………………………………」 美琴の顔が徐々に赤くなり、顔を思い切り横へ逸らす。 しかし上条は上条でそれどころではなく、心の中で(え、どっち?どっち??)と苦悩し始めた。 長い沈黙。 真実「残り20秒」 美琴「えっ!?えーっと」 美琴はとりあえず自分の側のボタンを押す。おまかせ質問は危なすぎる。 美琴「そ、そーうそう。アンタがくれたあのぬいぐるみ。あれ作るのを手伝ってくれたのは隣の男の人だったわよね。何て人? もし出来たらお礼言いたいし」 上条「……………………………」 上条はいきなり意識を現実に戻され、休む間もなく窮地に立たされる。顔からタラタラと汗が流れてきた。 目線をギギギギと美琴から外し、心の防御姿勢をとる。 上条「…………………お前の知り合い。土御門舞夏」 真実「真実~!!!プラス100ポイント」 美琴「…………………ほほう」 上条が恐る恐る美琴の方をチラッと見ると、あからさまに目が座っていた。かなり怖い。 右手を離して物理的防御態勢を取りたい衝動に駆られるが、離したら離したで色々やばそうなのでどうにかギリギリ耐える。 美琴「アンタ、男って言ったわよねぇ」 上条「……………」 『厳密には言ってません~』なんて茶化すような雰囲気ではない。 美琴「ていうかそもそも何で土御門がアンタの隣に住んでるのよ…………まさか!アンタあの子にも手を」 上条「ち、違う違う多分何か盛大に誤解してるぞお前!アイツの兄貴が隣に住んでるだけだ。おかずのお裾分けに来た時に、 作りかけのぬいぐるみを見てもらって、出来があんまりだったからコツを教えてもらったんだよ!」 そう言えば上条との会話で土御門という単語は何回か出てきたな、と美琴は思い出す。 しかし重要なのはそこではない。 美琴「で、何でさっき本当のことを言わかなったわけ?」 上条「それは…………」 何故だろうか。自分でも首をかしげる。 別に恋人同士でもないのだから、クリスマスプレゼントの作成を女の子に手伝ってもらうくらいどうってこと無いはずだ。美琴が そこで怒る理由も無いし、きっと今怒っているのも本当のことを言わなかったからだろう。 それでも自分は言い訳じみた態度を取ったのだ。 上条「なんて言うか、悪かったな。嘘付いて」 分からないことだらけだったが、分かる部分については謝っておく。 美琴「はぁ。アンタ、結局何も分かってないわけね」 しかし美琴はお気に召さないようだった。 上条は更に混乱して、苛立ちをあらわにする。 上条「だから正直に言わなかったのは謝るって」 美琴「…………………」 上条「んで、何でまだ怒ってるんだよ」 美琴「誰が怒ってるってのよ」 上条「お前」 美琴「怒ってないわよ」 上条はボタンを押す。 上条「怒ってるだろ」 美琴「うっさい、怒ってないっつってんの!!」 真実「嘘ー!!!マイナス92ポイント」 美琴「ッ!?」 上条「…………………………」 美琴「アンタが馬鹿なことになら怒ってる」 上条「はあ?」 美琴がボタンを押す。 美琴「アンタさ……………た、例えば、私が……もし、誰か知らない男と………町で遊んでたら、どう思うわけ?」 上条「何だそれ?」 そういえば美琴が他の男性と居る状況に出くわしたことはほとんど無いな、と上条は回想する。 上条(常盤台のお嬢様なら当たり前か) 試しに想像してみる。 美琴の隣に男性が居て、二人は笑いあっている。 上条(美琴の電撃ツッコミを防げる奴なんか居るのか?………って、あんなことするのは俺にだけか) 二人でショッピングしたり、喫茶店でおしゃべりしたり、ゲームセンターで遊んだり、映画を見たり、カラオケしたり…… 上条(………やめた) そこら辺で考えるのをブツリと止めてしまう。 一瞬、胸の底から何やらドス黒いものが顔を覗かせた気がする。それが少し怖かった。 しかし上条にはそれが一体何なのか分からない。 とは言っても初めて体験する感情なんてよくあることだからさして気にすることでもない。上条は記憶喪失なのだ。 そうだ。考えてみれば美琴が訳が分からないのは毎度のことである。 ならいつも通り、軽口で適当に答えれば良い。 上条「別に何とも思わねえよ。あーでも、そいつの身の安全が心の底から心配ですなー」 真実「真実~!!!プラス42ポイント」 美琴「…………………へぇ。そっか」 目線を下に落し、俯き気味に答える。 ある程度予測はしていたものの、その返答と結果は美琴の気持ちを重く沈めていった。 美琴(……………そうよね) 口の中で自嘲気味に笑う。 いつもは自分から逃げてばかり居る上条だって、今日は楽しいと言ってくれた。 そりゃぁそうだ。上条が嫌がると思ってビリビリを封印し、上条が素直に楽しめるように不幸を取り払い、罰ゲームでもない のにこの自分がお願いだって聞くというのだ。 でも、それでも、多分そこまでなのだった。 空想上の第三者にすら嫉妬してくれない。せいぜいよく喧嘩する友達か腐れ縁くらいにしか思われてないのだろう。 美琴(……………何だ、馬鹿みたいだ。私) お願いを聞くと言えば、ひょっとしたら『付き合ってくれ』なんて言ってくれるんじゃないかという打算もあった。 昨夜バスタブの中でニヤニヤしながらそんなことを考えていた自分を呪いたくなってくる。 美琴(当たり前か。私、素直じゃないし、ビリビリ攻撃するし………) 上条は美琴が一人で暗くなっている様子が気になったが、理由を考えたところでどうせ答えは分からないだろうと予想する。 だからまた軽口でも言って、言い合いにでもなれば元気になるだろうと踏んでボタンを押した。 上条「なんだー?好きな奴でもできたのかい?相談にのってあげるから当麻お父さんに言ってみなさい。つっても記憶無いうえ に俺はそういうの専門外だから全然役に立たねえだろうけどなー。あっはは」 美琴「…………………………別に居ないわよ」 真実「嘘ー!!!マイナス98ポイント」 上条(……………………え?) 上条は虚を突かれたように呆然とする。 上条(ってことは本当に好きな奴が居るってことで良いのか?) 美琴としては上条が『好きな人が居る』を『自分かもしれない』のだと薄々気付き、その事を意識してくれるのではないかと 少し期待したが、上条はそんな都合の良い幻想を抱こうとは決してしない。 上条(一体どこのどいつに?どんな奴に?) 美琴が好きな男―――強くて、優しくて、ハンサムで、常盤台のお嬢様に似合うような上流貴族の如き完璧超人を上条は 思い浮かべた。 更につっこんだことを尋ねたみたくなるが、美琴が否定しているならば言いたくないのであろうと思い踏みとどまる。 上条「へ、へぇ…………そっか」 気付くと、自分の表情が砂を噛んだような苦いものになっている。 胸周辺が熱くギリギリと痛むのだ。その上気持ちの悪い汗も出てきた気がする。 しかしやっぱり上条にはそれらが何を意味するのか解からない。 チッ、と上条は心の中で舌打ちをした。 上条(どうせ体調不良か何かだ。やっぱあのケーキ、ヤバイもの入ってたんじゃねえだろうな………) そんなことを思っているうちに、美琴の右手がボタンに伸びた。その手には勢いがない。 美琴「アンタこそ、あのちっこいシスターと一緒に住んでるんじゃないの?」 鎌かけ。 今まで色んな女の子が上条と一緒にいるのを見たが、一番多かったのはあの銀髪のシスターだ。その他の色んな言動も加味 して二人が同棲していることは十分予想できたし、それを何度も案じてきた。そんな日は決まって眠れなかった。 若干自暴自棄になってそれを質問したのだが、時間が経つにつれ徐々に後悔の念でいっぱいになってしまう。現在進行形で 仲良く同棲しているだなんて言われたら自分の心がどう反応するかなんて分かりそうなものなのに。 思考がボロボロだ。こんなにも近くに居るのに息が苦しい。 上条「いいえ」 上条はそれに臆さずに答える。 真実「どちらでもないようじゃ。プラス33ポイント」 上条「あれ!?これってどんだけずば抜けた精度してるんだよ。深層心理まで読み取ってるとしか思えねえ」 美琴「……………………………」 そこまで言ってから上条はしまった!という顔をする。 美琴は顔を俯けたままで責めるように上条を見つめた。 その無言の上目遣い攻撃に上条は居心地が悪くなる。 上条「い、いや。正直に申上げますと、最近までアイツが居候してたわけです。でも色々あって今は別のところに住んでいるの ですよ。だから多分『どちらでもない』にされたんじゃないかと…………」 美琴「……………………………」 上条「あ、もちろん変なことは一度も無かったぞ。この上条さんの鋼の精神の前ではどうってこと無い!夜はわざわざ一人で バスタブに寝てたくらいだしな!!」 美琴「……………………………」 上条(って、だから何で俺は言い訳ばっかしてるんだ??) その言い訳を一通り聞いて、美琴は半分安堵、半分怒りを覚えた。 危うく心が砕けそうになるのを回避したことで思わず笑いが漏れる。 美琴「プッ、ハハ……なんだ、アンタ捨てられたんだ」 意地悪そうに言うその表情はぎこちないものだったが、慌てる上条は気付かない。 上条「なんつうひでぇ表現だ。俺は平和的にアイツを送り出しただけだ。心情的には母親みたいなもんです」 美琴「母親ねぇ……………アンタって無意識に結構酷いこと言うわよね」 上条「え?何かおかしいか?」 美琴は上条が誰に対しても鈍感であることに呆れ溜息を付く。 美琴(同棲までしてそれって、さすがにちょっとあの子に同情するわね。その後どうなったかは知らないけどさ) 上条は未だよく分からないと言う表情をしている。 美琴「おかしいのはここだド馬鹿!!」 上条がよく分からないと言う表情で美琴の顔を見つめてきたので、美琴は心中を気取られないために無理矢理テンション を上げて頭にチョップを食らわす。 上条はその痛みを気にする余裕もなく、更に混乱する。全くテンションがコロコロ切り替わる中学生だ。 上条(毎度のことながら意味分からねえ。それとも本当に俺の頭が変なのか?) 記憶喪失だからか、そこら辺の感覚がよく分からない。 最大の謎は美琴が自分に対してどう思っているかだった。最初の頃はビリビリ攻撃ばかりしてくるから相当嫌われてるのだと 思っていた。しかしあの夏から色々なことがあって、何度かは自分の代わりに戦ってやるなんて言われた。嫌われてはいないの だろうと思う。でも好かれている訳でもなく、きっと記憶喪失であることを同情しているんだと勝手に決めつけていた。 それが今日一日で崩れかかった。 上条(サンタになって俺を幸せにしたい。なんて、普通同情で言うもんじゃねえしな) 柄にもなく、ひょっとしたら美琴は自分に好意を持っているのではないかというのが頭をちらついた。 上条(でも……) 先程の質問の回答で膝から崩れ落ちるような感覚を味わった。美琴に誰か好きな人が居るなんて今まで考えもしなかった。 思い起こしてみれば、夏に頼まれた恋人ごっこなんかもそれが原因だったのかもしれない。 上条は再びその事を考えてイライラし始める。半ば無意識にボタンを押していた。 上条「お前にド馬鹿とか言われたくねえっつの。お節介なことかも知れないけどな、想い人が居るならクリスマスイブに 何で俺なんかとこんなことやってんだよ、そいつと過ごすべきだろばっかやろうが!」 そんなことを言わなきゃいけない自分が情けない。美琴の目は見ない。 しかし数秒後にそれを反芻して、普段の自分では言わなさそうなその内容に今度は戸惑い出す。 上条(御坂は今日色々頑張ってるじゃねえか。何で俺はそれを拒絶してるんだよ??) 美琴のことを想って優しさでそんなことを言った、なんて絶対に違う。ただ胸の中にある黒い物が怖いからと自分勝手に美琴へ ぶつけただけだ。 上条「わ、悪い」 何か先に言われるのが怖くて、慌てて謝る。 美琴「………………」 場が静まりかえる。 美琴は、上条がどうやら自分自身が好かれているということを一切想定していないらしい、というのに気付いた。だがもはや その誤解を解く気力も起きないし、それを上手く解く方法も見あたらない。 結局上条が自分と一緒にいることを優先にするほど、二人の距離は近くないと言うことだろう。もしかしたら、一緒にいること が苦痛にすら思われていて、仕方がなく付き合ってやってるだけなのかもしれない。今日までの二人の関係と、上条の性格を 考えればそれも自然の道理だろう。 美琴(さっきから考えれば考えるほど悪い方向へ進んでる気がする……) やや沈黙。壁のディスプレイの数字が徐々に少なくなっていく。 美琴「ま、そうかもね。私もそう思うわ」 真実「真実~!!!プラス100ポイント」 今実際にそうしているんだからそうなるだろう。 しかし上条は自分で聞いたくせに、その返答に心をざわつかせた。 上条は美琴と別の想定をしているため、上条にとってそれは今日の全否定に繋がる。 美琴の手がボタンに伸びる。 美琴「でもさ」 上条「?」 美琴は完全に俯く。顔を見られたくないし、上条を見るのも怖い。 美琴「アンタは…………………それで良いの?」 美琴も、上条が勘違いをしていることは分かっている。 だからこの質問の意味は『今日の出来事を別の誰かと過ごしても良かったの?』だ。 上条「良くねえよ!!!」 真実「真実~!!!プラス100ポイント」 考えるより先に言葉が出た。 遅れてそれを理解する。 美琴が自分以外の男と手を繋いで町を歩くのも、手を繋ぎながらケーキを食べるのも、ヘンテコなプリント機であんな写真を 撮るのも、こんな言い合いするのも、そばに居て幸せにするなんて言うのも嫌なのだ。 それらは全て自分へ向けられて欲しい。 上条(ああ、そっか…………) 上条は自分の中の何かをやっと理解した気がした。 何故かなんて理由は分からない。ただ、その衝撃に手で口を覆う。 気付くと美琴が顔を上げてポカーンとしていた。 上条は慌てて先を繋げる。 上条「だから最初にも言ったけどさ、俺は嬉しいんだって。今日は一人の予定だったからな。俺の不幸を案じてくれるってのも 助かるし…………あ、お前がサンタのコスプレしてきたら完璧だったけどな」 美琴「………あ、アンタは相変わらず私にどんなキャラ期待してんのよ」 上条「いや冗談冗談……………でもさ、俺を幸せにしておいて、お前が不幸になってちゃ意味ないだろ?」 美琴「私は、…………………………」 上条「一つだけ聞いて良いか?」 美琴「何よ」 上条は最後のボタンを押す。 上条「何だって、今日はこんなに良くしてくれんだよ。変な勘違いされても知らねーぞ、ホント」 美琴「別に………そんな意識無いわよ。ただ、アンタが不幸だ不幸だ言ってるのが気にくわないだけ。私を打ち負かしておいて 不幸とか、ふざけんなってことよ」 真実「真実~!!!プラス78ポイント」 上条「そっか」 美琴「そうよ」 二人はそれ以上何も言わず。小部屋を後にする。 勝負結果:422ポイント対61ポイントで、上条の勝ち。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/幸福の美琴サンタ
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/上琴の戦い 上琴VS固法 黒妻 ・街中にて 美琴「固法先輩……どうしても譲る気はありませんか……?」 固法「御坂さんこそ……譲らないって言うのね……?」 美 固「「……もう1度言うわ…」」 美琴「当麻のほうが……」 固法「黒妻さんのほうが……」 美 固「「強いに決まってる!!」」 上 黒「「どうしてこうなった……」」 固法「……じゃあ上条さんは10人以上のスキルアウト相手に勝てるの?黒妻さんはできるわよ?」 美琴「そんなの簡単ですよ!当麻はすっごく強いんですから!」 上条「(……いや…無理だ美琴…俺はスキルアウトが3人いたらアウトだよ……)」 美琴「じゃあ逆に聞きますけど黒妻さんはイギリスのクーデター鎮めたり第3次世界大戦の 首謀者を探し出して倒したりできますか?」 固法「黒妻さんにできないことはないのよ御坂さん?」 黒妻「(なんで世界規模?いくら俺でもそれは無理があるってもんだ。)」 上条「(ていうか固法さんいつもとキャラ違う……彼氏のこととなるとこうなるのか。)」 固法「実際に御坂さんも黒妻さんに助けてもらってるでしょ?」 美琴「う……」 固法「だから黒妻さんのほうが強いしかっこいいわよ。」 黒妻「おいおい美偉、言い争いはこれ「固法先輩!!」くらいに……」 美琴「確かに黒妻さんには助けてもらいましたけど当麻よりかっこいいっておかしいですよ!!」 上条「おい美琴!何言い出すんだ!」 上条「(俺が浜面と言い合いした時みたいな雰囲気になってる……ってことは…)」 固法「何言ってるの御坂さん、おかしくないでしょ?」 上条「やっぱり……」 黒妻「何がやっぱり?」 美琴「おかしいです!だって……」チラッ 上条「え、何?」 美琴「………(やっぱかっこいい……)」 美琴「(いつどこで何度見ても飽きないわね……)」ポー 上条「(なんで止まったのかわかんないけどチャンス!)」ギュ 美琴「ふぇ?」 上条「ほら美琴、落ち着こうなー。」ナデナデ 固 黒「「ッ!!?」」 美琴「あああああああああアンタ人前で何抱きついてきてんの!!??!?」 上条「友達と言い争いをする美琴たんが悪いんですよー。」ナデナデ 上条「それとも嫌なのかなー?」ニヤニヤ 美琴「……嫌じゃにゃい…/////」テレテレ 固法「………」チラッ 黒妻「すごい扱い慣れてるな。」 固法「………」チラッ 黒妻「いやそんな見られても俺に人前であれは無理だぞ?」 WINNER 上琴 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/上琴の戦い
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/幸福の美琴サンタ 第4章 アーティフィシャルインテリジェント 12/24 PM8 55 晴れ 上条「お願い事?」 美琴の隣を歩く上条が聞き返す。 美琴「そうよ。今日のプレゼントはアンタを幸せにする事っつったでしょ。不幸を防いだだけじゃ幸せじゃないから、何か アンタ的に幸せになれそうなお願い事を一つだけ聞いてあげるってことよ」 上条「………何だか大盤振る舞いだな」 既についさっきこの学区のスキルアウトを追い払ってもらったばかりである。 美琴「そんなことないわよ。私が出来ることの範囲内だけだし、私が嫌だったり面倒なら全部拒否するもの」 上条「何だそりゃ?てことは俺が望んで、お前も望む事じゃなきゃ駄目って事か?難問だな」 美琴「そ。だから帰るまでに考えられるように、今言ったわけ。ほんとは最初に言うべきだったかもしれないけど」 そんな余裕は無かった気がする。 美琴「んで、アンタはどっか行きたいとことかある?無いなら私行きたいところあるんだけど」 上条「うーん。その前にさ」 美琴「ん?」 上条「門限とか良いのか?一応お前お嬢様だろ?」 美琴「一応って何よ……こんな日は寮生が全員で結託するのよ。今日は別の子が何とか誤魔化すし、明日は私が誤魔化す ってわけ。まぁ12時超えるとさすがにきついけどね。皆寝ちゃうし」 寮監との全面戦争は正直骨だが、女子中学生にとってクリスマスというイベントはそれほど価値がある物なのだ。 上条「なるほど………ん?てことはクリスマスにこんな風に出歩くのはこれだけか」 美琴「ッ!?………わ、悪かったわねつまんない人間で!明日は昼間に黒子主催のパーティーがあるだけよ」 パーティーと言っても女の子が集ってわいわいやるだけなのだが。 上条「いやだから何故そこでキレるんだよ」 美琴「あ、アンタだって、よく見るあの小っこいのとか、妙におどおどした紫の子はどうしたのよ」 上条「ん?ああ、アイツらは一応アレでも宗教関係者だからな、クリスマスとか年末年始は猫も手も借りたいほど忙しいんだとさ」 インデックスや五和が毎年その時期忙しいという訳ではないのだが、恐るべき上条不幸パワーの影響か、知り合いの宗教関係者は 軒並み多忙を極めることになっていた。結果、上条は一人きりとなったのである。 美琴「ふーん。なんか私達一般的な日本人って結構お気楽よね」 上条「んーそーだなー」 どう考えても一般ではない二人が自覚無しに呟く。 美琴「って、話が逸れたわね。私ゲーセン行きたいんだけど、別にいいわよね?」 上条「ゲーセン~?やめておいた方が良いと思うぞ」 上条があまり面白く無さそうにそう言った。 美琴「何でよ」 上条「俺と行くと楽しくないからな。切ない気持ちになって終わり。何も当たらないし、お金は飲まれるし、機械は壊れそう になるし……」 美琴「ああ何だ。そんなことか」 美琴は簡単にその忠告をバッサリと切って捨てた。 上条「そんなことってお前……」 美琴「このゲーセン大好き美琴センセーに任せておけば大丈夫よ。そんな退屈はさせないわ」 上条「いや、俺でなくてお前がつまらなくなるっての。過去の経験からそうなることはもう決まり切ってんだって」 美琴「私は全然これっぽっちも問題ないわよ?」 上条「何ですかーその自信は?何か理由でもあんのか?」 美琴(………アンタと一緒だからに決まってんじゃないのよ。気付け鈍感) 心の中で叫ぶ。 美琴「要はアンタの変な体質が絡まないもんなら良いんでしょ。当たり外れがない物とか、対戦ゲームとか。最悪私の能力 ならチート行為とかできちゃうし」 美琴は悪そうに笑う。 上条「お前………普段からそんな味気ねえ遊びしてんのか?」 美琴「してないわよ!………………た、たまにしか」 上条(たまにはやるのかよ………) 美琴「つうか何、アンタもしかしてゲームで私にボロ負けするのが怖いんじゃないの?」 上条「そんな安い挑発に乗る上条さんではありませんよー。でもまぁ、お兄さんは心が広いから、お前がきちんとお願いするなら 対戦してやらないでもない」 美琴「………まんまと乗ってんじゃないのよ………つかもう着いちゃったんだけど」 上条「え?」 美琴が指さした方には大きなデパートらしき建物があった。 クリスマスイブだけあって、それらしいBGMが掛けられ、厚着をした人々がひっきりなしに出入りしている。 美琴「ここの15階」 上条「どこへ向かって歩いてるのかと思ったら、目的地はもう決まってたのかよ」 美琴「まぁまぁちょっと寄って見なさいよ。他のゲーセンと違ってヘンテコなのがいっぱいあるから、見てるだけでも面白いわよ」 上条は渋々といった感じで付いていく。 美琴が案内したゲームセンターは、学園都市の様々な研究所が共同で運営している実験的なものであった。 その特徴としては、最新技術がふんだんに使われたゲーム機が多い代わりに純粋な面白さは追求していないことや、能力開発 で使う装置に似た物が置いてあったりすること、料金が異常に安いことなどがある。 ゲームセンターの名前も『総合能力開発研究グループ第三支部試験場』などという固いものだ。 しかしそれでも最新のゲームが楽しめるとあって、レベル1以上の学生にはすこぶる人気であった。 上条「確かに混んでるな。って、何でレベル1以上?」 美琴「能力開発に似たものもあるからでしょ。無能力者にとっては学校で能力開発受けてるみたいで嫌だとか何とか」 上条「……胸が痛い」 美琴「ま、今日はそう言う系はやらないわよ」 上条「そっか。……あとさ、何で俺たち見られてるわけ?」 先程からから妙にチラチラ見られている気がしてならない。 上条(見られているというか、警戒されてる?) 特にクリスマスデート中のカップルなんかより、そんなことお構いなしのゲーマーっぽい人達がそう言う動きを見せている。 美琴「……私、常連とはいかないまでも、たまにここに来るわけよ」 上条「知り合い?」 美琴「ううん。違うと思う。多分私がゲームで打ち負かした人達と、その噂を知ってる人達………」 能力開発に近いゲームが置いてあるため、自ずと高位能力者は有利になる場合が多い。 リアルでもゲームでも強い者を求めていた美琴は、一時期ゲームセンターに入り浸っているゲーマーを片っ端からフルボッコにした 経験があった。 おかげで一部ゲームセンターでは美琴が伝説として畏怖の対象になっていたのだ。 上条は自分の過去と重ね、彼らに心から同情をする。 上条「ああ、それは何と可哀想なことだ。さぞ怖かったろうに……」 美琴「…………喧嘩売ってるわけ?」 上条「いやお前、そりゃ雷落すような奴がつっかかってきたら怖くて泣くって!」 第一位も第三位も打ち負かした奴がそんなことを口にするのはおかしい話だが、美琴はその発言に対して地味にショックを受けて しまう。普段なら『アンタが悪いんでしょ』と理不尽なキレ方をするが、今回はそう言う気が起らない。 美琴「あの……なんて言うか、その件については謝るわ。ごめん」 上条「え?い、いや、別に謝らなくて良いよ。俺覚えてねえし。今日はまだビリビリされてねえし」 妙に素直な美琴の態度に少し驚く。 上条(そういえば、これだけ一緒にいて電撃を浴びせられないというのは新記録かも?) 美琴は美琴なりに頑張っているのだ。 二人はとりあえず荷物や手袋などをロッカーに入れ、少し店内を見回ることにした。 普通のゲームセンターにあるオーソドックスなものから、説明書を読んでもイマイチ何をしたいのか理解できない物。さらに ミニゲームから安全性を疑いたくなる大規模なものまで、様々なゲームがあり確かに見ているだけで面白いと上条も感じた。 美琴「さてと、そろそろ今回の最重要目的地へ行くわよ」 上条「あー、やっぱ何かあるわけか」 上条は美琴に付いていくと、一台のプリント機に行き着いた。 外観は飾る気が無いのかシンプルで、『AIによる撮影シミュレーション実験筐体No.3』とタイトルだけ飾られている。 上条「写真でも撮りたいのか?」 美琴「この機種のフレームが可愛いんだけどね」 上条「ああ、はいはいなるほど」 美琴「この前黒子と来た時、あらかた撮りまくったわけよ」 上条「あらかた?」 美琴「185枚!」 上条「……………………白井もよく付き合ったな」 美琴「いや、あの子死ぬほど喜んでたけどね」 上条「……………………」 美琴「なんだけどさ、一番重要なのが撮れなくて…………」 上条「重要………ああ、いやいい、言わなくても分かる。もう何度目だよこのパターン。ゲコ太だろ?」 美琴「よく分かったわね」 美琴は目を丸くして驚く。 上条「そりゃぁクマのぬいぐるみ作るのにお前のこと色々考えたからな。行動パターンはもうお見通しなのですよ」 上条は少し得意げに言う。 ちなみにそのうちの半分程度は舞夏から諭されたようなものだ。 美琴(な、何恥ずかしいこと言ってるのよ) 美琴には上条が『お前のことをずっと考えていた』『お前の事なんてもう何でもお見通しだ』と言っているように聞こえて焦る。 慌てて手を胸に当て、目を瞑り落ち着こうとする。さすがにそう何度もふにゃふにゃになってはいられない。 上条はそんな美琴の様子を見て、また具合が悪くなったのではないかと勘違いし、肩に手を掛ける。 上条「御坂?」 美琴「にょわっ!」 いきなり話し掛けられてビクッ!とする。 美琴「ななな、何?」 上条「また具合悪いのか?」 美琴(や、やめ……て。そんな顔で私の顔を覗き込まないでっ!鼓動が余計速くなるじゃないのよ) 美琴はプイッと横を向き、「うっさい、大丈夫よ」と何とか言う。 上条「何かよく分かんないけどさ、具合悪かったら言えよ?倒れたら色々やべーだろ?」 美琴「う、うん。確かに」 上条「……んじゃさっさと入るべー」 美琴「あっ、ちょっと待って」 仕切りになっている垂れ幕を上条がめくったところで美琴はそれを一旦制止する。 美琴「この機種。AIが馬鹿だから覚悟して頂戴」 上条「へ?」 AI 「イラッシャイ。オカネヲ、イレテネ」 上条がくぐりきると、機体から声優が演じている子供のような声がブツ切りで発せられる。 後から入ってきた美琴が100円玉を1枚だけ投入する。 AI 「アアッ、マタキテクレテ、アリガトウ」 美琴「…………」 AI 「スキナフレームヲ、エランデネ」 美琴は画面上に出た幾つかのカテゴリから『恋人』と書かれたハート形のボタンを押し、次にお目当てのフレームを選択する。 そのフレームはゲコ太のみならず、ケロヨンやピョン子、その他ラブリーミトンのキャラクターが数多く出てくるマニア垂涎 のものだった。 わざわざ上条をゲームセンターまで引っ張ってくるだけの価値はある。 上条「そういえば何で白井とは撮れなかったんだ?」 美琴「このフレーム、どういうわけか男女ペア向けなのよ。開発者が適当にカテゴリに入れたのかしら?その時はそんなこと無視 して撮ろうと思ったんだけど、この機体が忌々しいことに顔認識とかしてきやがって、『アレレ?オトコノコジャナイヨ?』 とかふざけたこと言って拒否されたってわけ」 上条「………また妙なところに凝った仕様だなそりゃ」 美琴「でしょ?作ってるのが研究者だからそこら辺適当すぎるのよ。の割りに金が掛かってるから、外注のフレームとかは 出来が良いし…………。あん時はぶっ壊してでも撮ろうとしたんだけど、さすがにあの子に止められたわ」 ジャッジメントとしてギリギリの判断だったのかもしれないな、と上条は少し哀れむ。 上条「キョウハソンナコト、シナイデホシイナ」 美琴「アンタが協力すればすぐ終わるわよ。あとその口調本気でやめて」 上条「へい……」 必要な入力が全て終わる。 美琴「全部で5回撮るんだけど、たまに変なこと要求してくるかも」 上条「変なこと?」 美琴「ジェスチャー認識の一環でかっこ悪いポーズ撮らされたり」 上条「うぇー……………ま、まぁ壊すのよりはマシじゃねーの。はぁ」 AI 「1マイメ、イキマース。ハイ、チーズ」 パシャリとフラッシュが焚かれ、一瞬目が眩む。 上条と美琴の距離は人一人分の微妙な距離が空けられている。 AI 「アレレー?チョット、フタリノアイダガ、トオスギルネ!モットチカヅイテ!」 美琴「こういうふざけたことを言う訳」 上条「無駄に演技くさいあたりがイラッとくるな」 仕方なしに二人はほんの少し近づき、普通に直立のまま撮る。 今度は良かったらしい。 AI 「オネガイガ、アルンダケドー?コウイウポーズ、シテホシイナ!」 美琴「やっぱ来たか」 画面に何やら人の絵が出てきた。青い方が赤い方の肩を抱いている。 カテゴリが『恋人』であるからそう言うポーズが要求されるようだ。 上条(これって………) 美琴(あー、何かデジャブ) 写真でこのポーズと言えば、一度撮りかけたことがあったはずだ。 二人で同じ事を考えていたが、口にしてもしょうがないのでその件には触れない。 上条「ど、どうする?」 美琴「…………えっと」 美琴は当時のことを思いだし、あの時はまだ漏電なんかしなかったからなぁ……なんて自分が退化しているように感じて 憂鬱になる。 二人の距離はあの時から縮んだのだろうか。 美琴「うん。そうね、やっぱ手っ取り早くこいつ殺るか」 上条「…………冗談に聞こえねーぞおい」 美琴「本気だもの。あ、殺るって言ってもソフトウェア的な話よ?」 上条「どちみち駄目だっつの!」 仕方がないので上条は美琴の左側に回り、右手を肩に回す。 美琴は徐々に顔が赤くなるが、まぁアンタが止めるなら仕方ないわねやってあげるわ、と言わんばかりの表情でじっと耐える。 この程度なら以前にもやったし、さっきも無意識にやっていた気がするので両者共に許容範囲だ。 上条(つか、写真を諦めるって考えはないんだな。すげぇ執念………) 無事2枚目も撮り終える。 AI 「オネガイガ、アルンダケドー?コウイウポーズ、シテホシイナ!」 美琴「………………………」 上条「………………………」 次の画像は、青い人が赤い人を抱っこし、赤い人が青い人の首に手を回している絵。いわゆるお姫様抱っこ状態だ。 上条(何の冗談ですかこれは) 上条が美琴の方をチラッと見てみると、美琴はポケーッと子供のようにその画像を眺めていた。数秒すると上条の視線に気づき、 愛想笑いをしてきたので、上条も愛想笑いを返してみる。 上条「やーや-、無理だわ。ギブギブ」 美琴「そ、そうね。私もこれはちょっと………って思ったんだけどさあ、なーんかアンタのその言い草、まるでやりたくない ような感じね」 上条「な、何怒ってんだよ。して欲しいのか?」 美琴「ばっ!!?んな分けないでしょ!!じゃなくて、アンタがしたくないんでしょ!!」 上条「んなこと言ってねえだろ!そもそもしたくないも何も、お前のその格好じゃできねーじゃねえか!」 美琴の短いプリーツスカートを指差さして叫ぶ。 美琴「ざーんねんでした。短パン穿いてるんだわこれが」 美琴はプリーツスカートの下をほんの少しまくって短パンを見せる。 上条「くっ!!い、いやでも待て!どうせまたお前のビリビリ落ちになるんだろ、そうなんだろ!」 美琴「今日は一回もアンタにビリビリしてないじゃん!」 上条「それはお前が俺の右手を掴んでたからだろ!」 美琴「うっ……わ、忘れかけてたんだから思い出させるんじゃないわよ」 AI 「ミギテヲツカッテ、ダッコシテネ」 上条「…………………」 美琴「…………………」 上条「え、何で反応してるんですか?こいつ」 美琴「あー、たまにボソッと介入してくるのよね。こっちの声は多分聞こえてないと思うんだけど」 上条「ホラーじゃねえか」 AI 「ハヤクー」 上条「…………………」 美琴「…………………」 AIが言ったことは確かに正論なので、二人で固まってしまう。 美琴「ま、まぁ、フレームゲットのためには仕方がないわ」 若干口元が緩みそうなのをどうにか押さえてわざとらしく言う。 上条「………ったく、しゃぁねえな」 上条も諦めて頭を掻く。冷静でいられるかかなり怪しいが、やるしかないようだ。 上条「じっとしてろよ?」 美琴「う…うん」 上条は右腕を美琴の背中に回し、左腕を膝の後ろに回すと、美琴を少し後ろへ倒し一気に抱え上げた。 抱えた脚と背中や、自分の胸とくっついた部分などから美琴の体温が伝わってきてかなり気恥ずかしい。 美琴は両手を胸の前で固く握り、カチコチに固まって身を預ける。自然に前を向くとすぐ目の前に上条の顔があり恥ずかしい ため、カメラの方を向く。 上条(人間って意外と重いんだよな。っとか言ったら絶命しそうだから言わないけど) 上条「…………あれ?撮らねえな」 AI 「ポーズガ、チガウヨ」 上条「ああ、み、御坂、腕だ腕」 美琴「……!……!!……!!!」 上条に言われて顔を再び見る。言わんとしていることは理解できるのだが、緊張しすぎて声が全く出ない。恐らく表情も 死ぬほど固くなっていることだろう。 上条の右手が肋骨の当たりを触っている。 上条の左手が脚を触っている。 更にここから動くと別の所まで触られそうで、怖くて体が動かない。 もちろん腕も同様で、赤ん坊のようなそのポーズを崩せそうにない。 予想していたものを遥かに超える恥ずかしさで頭がどうにかなりそうだ。 徐々に後悔の念が沸いてくる。 上条(うわ、無茶苦茶嫌そう。何か一人で恥ずかしがってるのが馬鹿みたいだな) 上条「あー………なんと言いますか、まぁそんな脅えきった顔すんな。今下ろすよ」 美琴「……!!」 しかし美琴は首をブンブンと横に振ると、涙目になりながら腕をおずおずとゆっくり差しだし、どうにか上条の首へ回す。 恥ずかしさの限界値を超えるようなこの状況はさすがに美琴にとっても不本意だったが、それが上条自体が嫌だからという 理由だとは絶対に勘違いされたくなかった。 上条(そ、そこまでして写真を撮りたいのか?) ただし上条には通じない。 AI 「イイネイイネ。3マイメ、イキマース。ハイ、チーズ」 二人とも心の準備が出来ないままフラッシュが焚かれる。 恐らく写った二人の顔は真っ赤に染まり、目が泳いでいるに違いない。 上条は「終わったぞ」と声を掛けて美琴の足を静かに下ろす。 しかし美琴は相変わらずカチコチで、腕が離れない。 立ち上がると抱き付くような形になった。ただし体と体のスペースはかなり空けて、顔は思いっきり俯いている状態なので 恋人っぽくはない。 上条は予防のため美琴の肩に右手を置きつつ、少しずつ腕を離そうとして―――画面を見て再び絶句。 AI 「オネガイガ、アルンダケドー?コウイウポーズ、シテホシイナ!」 上条「……なんつうか、俺もこいつに殺意沸いてきた」 美琴が恐る恐る振り向くと、青い人が赤い人を肩車している絵が表示されていた。 上条(高さ足りねーだろ) と思って上を見上げると、何故か肩車をやる分くらいのスペースは設けられていた。 開発者は一体何をさせたいのだろうか。 美琴「は、ははは、はは。これは、前もあったわ」 力なく笑う。 黒子相手の時は面白がってやったが、上条相手にそんなノリで出来るわけはない。 美琴「ど、どうしよう……」 美琴が不安そうな声で上条に問う。 そう言う態度を取られると上条としても弱い。 とりあえず首に掛かってた腕を外して、子供に話し掛けるように優しく話す。 上条「どうしようって………辛いならやめた方が良いんじゃないか?」 美琴「そ、そんなんじゃない!」 そこだけは確実に否定する。 上条「んじゃぁフレームのためだと割り切っちゃうしかないんじゃねえかな?」 美琴「う、うん………そうね。コレクターとして負けてられないわ」 結局そこに行き着くらしい。 仕方がないので上条は美琴の後ろへ回り、しゃがむ。 赤を基調としたプリーツスカートと白のコートに覆われた美琴のお尻、さらにそこから伸びるすらりとした細い脚が視界を占める。 上条(……………無心だ無心。何も考えるなよ上条当麻) 上条は頭を振る。 美琴「へ、変なこと考えたら殺すから」 上条「………、おまえなぁ、せっかく今振り払ったのに」 美琴(振り払ったってことは考えてたってこと?) とりあえず美琴は脚を肩幅くらいにそっと開く。 それを確認して、上条は美琴の足首を掴み、脚の間に頭を通していく。視界の横にはニーソックスが見える。 上条(無心無心無心無心無心無心無心無心無心) 美琴(ゲコ太のためゲコ太のためゲコ太のためゲコ太のため) 上条のツンツンした髪が美琴の脚を撫でていく。 その感触がかなりむず痒い。 美琴「ちょっ、ちょっと」 上条「ん?」 美琴「わー!!上見るな馬鹿!!」 上条「痛ってー挟むな馬鹿!見ねえよ!っつか短パン穿いてんだろ!」 美琴「それでも嫌なの!」 AI 「ハヤクー」 上琴「うるせー!!」「うるさい!!」 二人でハモる。 上条「あーもうめんどくせーうらあああああああ!!」 美琴「わっ、わわ」 一気に頭を押し込み美琴を持ち上げる。 肩に美琴の柔らかな太ももが感じられるが気合いで無視する。 美琴はというと左手でスカートを押さえ、右手で上条の頭を押さえている。 上条「おい、重心もっと前にしろあぶねえ」 美琴「む、無理!」 AI 「4マイメ、イキマース。ハイ、チーズ」 パシャリ。 上条「た、倒れる………っだぁああああ」 上条が後ろに倒れそうになり、咄嗟に美琴は頭上にあった機体のフレームを掴んでそれにぶら下がる。 結果上条だけバランスを崩し後ろに仰向けに倒れた。 上条「あ」 美琴「うわー馬鹿、覗くなー!!」 AI 「オネガイガ、アルンダケドー?」 上条の頭は美琴の真下にあったため、スカートの中が丸見えである。といっても短パンであるが。 むしろ美琴がもじもじと腰をくねらせるせいで扇情的に思えるのではないか。と上条は手を顎に当てて冷静に分析する。 美琴「ッ!!」 美琴はついにキレて手を離す。迫り来る美琴の足を上条が寸前で横に避ける。 上条「あっっっぶねぇ!何すんだテメェ!」 美琴「アンタが悪…………………は?」 上条「ん?どした?」 美琴は画面の方をチラッと見て固まっている。画面は上条からは見えない。 仕方がないので起き上がろうとする。 美琴「わわっ、あ、アンタは見なくて良いわよ」 しかし止めるのが遅かった。 次のお題を見て上条も無言になる。 上条(なんつか、ここまで来たのに終了ですか) 画面の中では青い人と赤い人の絵が二人で両手を繋ぎ、キスをしていた。 さすがにこれはギブアップだろうと思い、上条は気楽に話し掛けることにする。 上条「あーあ。残念だったな。まぁ恋人が」 美琴「やるわよ」 上条「……………………………………………………はい?ごめん。もう一回言って」 美琴「やるっつってんの。これのために!」 美琴が指差した先には5枚目のフレームがあった。 なんとラブリーミトンの歴代キャラが大集合していて、豪華に写真の周囲を囲っている。 美琴の中で色々なものが天秤に掛けられた結果、それが勝ったらしい。 しかしそんな美琴の態度を見て、上条は少しイラッとする。 上条「ふざけんな、いくら好きだからって、テメェはこんな物のために俺とキスしようってのか!?」 美琴「………何怒ってんのよ。するフリに決まってんでしょフリに」 上条「へ?…………あ、あー……………」 美琴「アンタまさか、変なこと想像してたんじゃないでしょうね?」 美琴が意地悪そうな笑みと共に横目で見る。 上条「…………………で、でもこいつを騙せると思うか?」 上条はそれを無視する。 美琴「この絵を見る限り、真横じゃなくても良いんでしょ。なら付いてるかどうかなんてきっと分からないわよ。余裕余裕」 自分に暗示を掛けるように言い放つ。正直変な汗が出てきているが、この際それは無視する。 まぁここまで来たんだしやってみるか、という実験的なノリで上条は応じた。 二人はとりあえず立ち位置を決め、大体45度の角度で上条が画面側に立った。 次に両手を指を絡めるように握る。触った瞬間に美琴の手がピクッっと動いたが両者緊張しているのでその程度は気にしない。 美琴「と、とりあえずゆっくり、30センチくらいまで顔を近づけるわよ」 上条「30センチー?いくら何でもそりゃばれるだろ」 そう言うと上条はやや屈み込み、美琴の手前約20cmのあたりに顔を持ってくる。 突然だったせいか美琴が仰け反る。 上条「………………おい、お前この程度でかよ」 美琴「う、うっさいわね!びっくりしただけよ。ゆっくりって言ったでしょうが」 そう言って美琴は体をゆっくり戻したが、緊張して肩に力が入っているのが見え見えであった。 上条(そこまで俺を毛嫌いしなくても良いんじゃねえのか) AI 「ポーズガ、チガウヨ」 上条「………だそうです」 美琴「すこーーーしずつ、近づけるしかないわね。1秒に1ミリくらいの速さで」 上条「凄い遅さだな………けどまぁそれしかねえか」 言われたとおりにジリ……ジリ……と顔を近づけていく。 この速度だと距離が無くなるまで大体200秒は掛かるだろう。 上条(ん?) 上条はジーッと美琴の顔を見つめていて、面白いことに気付く。 美琴はボーッと上条の顔を数秒眺めているのだが、徐々に頬が赤くなっていき、ハッとして視線をオロオロと右や左に 移動させる。だが、それを気取られたくないのか、2秒くらいしたあとにキッっと上目遣いに睨んでくる。そのままで居ると その目が少しずつトロンとしてきて、ボーッとしだす。そして最初の状態に戻る。 上条にはそれが何だか可愛らしく思えて少し笑ってしまう。 美琴「…………何ニヤケてんのよ」 上条「いや別に」 AI 「ポーズガ、チガウヨ」 60秒以上は経っただろうか、唇と唇の距離はもう10センチとちょっとしかない。 お互いに息をするのが聞こえる程度になる。 美琴「ま、まだなの……?」 徐々に美琴は焦り出す。 もしこのまま最後までチガウヨと言われ続けたらどうなるのだろうか。 美琴(……………………………) 上条を見る。 さすがにこの近さだと恥ずかしいのか、たまに目が泳いでいる。 美琴(ま、さっき何か怒ってたし、嫌になったらこいつがやめるか) もしやめなかったら?ということは考えないことにする。 AI 「ポーズガ、チガウヨ」 上条「……なんで無駄に精度が良いんだよ」 もう10センチはとうに切っている。 喋ると相手に息が掛かる。 美琴「ちょっ、あんま喋んないでよ」 上条「へ?まさか俺の息匂う?」 美琴「そ、そう言うことじゃなくて…………」 それっきり黙ってしまう。 美琴の顔は更に赤くなり、呼吸が速まる。正直そろそろ限界が来そうだ。 それでも上条は近づくのを止めない。 AI 「ポーズガ、チガウヨ」 上条はボーッと美琴の顔を見つめていた。 ファミレスでは薄暗くてよく分からなかったが、その空間は写真を撮るために相当明るく、顔の隅々までよく見える。 意外と睫毛が長いことや、瞳の色、眉毛の色が茶色がかっていること、肌が肌理細かいこと、その肌が紅く染まってること、 化粧もしていないのに朱く瑞々しい唇、その唇がやや速いペースで息を吸ってること、たまに唾を飲み込んでるが、緊張のためか 上手くできていないこと……… 見ている内に恥ずかしさはどこかへ消え、徐々にそれが心地よい興奮へと変化していく。 上条(恋人同士のキスなら、この距離で普通は目を瞑るよなぁ) しかし両者の目は見開いたままだ。 寸止めするにあたって目を閉じていてはまずい。 AI 「ポーズガ、チガウヨ」 美琴はもう恥ずかしさとか言う次元を超え、とっくに居心地が良くなっていた。恐らく手を繋いでいなければ漏電している ことだろう。 上条が見つめている。ただそれだけで幸せを感じていることに気がつく。 やがて両者の顔の距離は、寄り目をしても相手の顔がぼやけて見えるほどに近くなる。 上条(このまま……してしまいたいな) 上条は陶酔した頭で思う。 もししてしまったら美琴はどういう態度を取るだろうか。 怒り暴れるだろうか。また雷を落すだろうか。軽蔑した目で見るだろうか。 でも、もしそうだとしてもこのまま距離をゼロにしてしまいたいと感じた。 上条(ビリビリされてないせいで御坂への印象が違うのかな) 普段はいつ電撃が飛んでくるか分からないため緊張状態にあることが多かった。 しかし今日は最初の宣言がある。だから美琴を冷静に落ち着いて見ることが出来たのかもしれない。 ということは、ビリビリしてこない美琴のことを、自分は好きなのだろうか。 そんなことを思っていると、美琴の瞼がゆっくりと閉じた。 上条「!?」 上条の動きが止まる。 そして既視感を覚える。似たようなことが過去に数回あった。 そういえば、あの時の美琴は結局何を考えていたのだろうか。 上条(もしあのシーンでキスをしていたら?) どうなっていたのだろう。 答えは恐らく目の前にある。 上条は再び動き出す。少し震えている唇に近づいていく。 そして――― AI 「5マイメ、イキマース。ハイ、チーズ」 上条「!?」 美琴「!?」 ビックゥ!!と二人仲良く痙攣して、バッと顔が離れる。 その瞬間にパシャッとフラッシュが焚かれる。 数秒で頭のもやが晴れていくと、初めて自分達の心臓がすごい速さでリズムを刻んでいることに気がついた。 上条「……………………………お、おお、俺たちの大勝利だな」 美琴「そそそ、そうね」 お互い目を合わせずに話す。 とりあえず上条の右手側は繋いだままで、左手側だけを離した。 AI 「モウスコシ、マッテネ」 上条「………………」 美琴「………………」 手を繋ぎながら目を合わせず無言で待つ。 ややあって取り出し口から二人用に切り分けられた写真が出てきた。 美琴「………………」 フレームは超絶に可愛いのだが、メインである写真の方を見ると黙ってしまう。 上条「あの、さ、これ二人分あるけどどうする?なんつうか………」 美琴「も、持っててよ。私だって今これどうすりゃいいんだろ?って悩んでたところなんだから」 仕方が無く上条は胸ポケットに、美琴は財布へと仕舞う。 美琴「あ、アンタは気をつけなさいよ?うっかり落して誰かに見られるって状況が簡単に想像できるわ」 そう言ってようやく上条の方を向く。 上条「俺も余裕で想像できるから言わなくて良い」 何故か血の雨が降りそうな気がする。誰の血かは自明。 上条「つかお前も白井に見られないようにしろよな?」 美琴「分かってるわよ」 テレポーターなんかと一戦交えるなんてのはごめんだし、黒子はそれ以上に執念とか怨念とかいう点でも怖い気がする。 二人は急にどっと疲れが出たような気がして、同時に溜息を吐き、プリント機からトボトボと出ることにした。 AI 「アリガトウ。マタキテネ」 上琴「「来るか馬鹿!!」」 ガンッ!と蹴りを一発ずつ残して。 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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/幸福の美琴サンタ 第6章 当たり 12/24 PM11:03 曇り 入る時より数倍暗い顔をして出てきた二人を店長が迎えた。 店長「いやー助かったわぁ。ありがとう二人とも!一時はどうなるかと思ったけどこれで私も帰れる」 店長は悪びれる様子もなく、二人に感謝して展望台のチケットを渡し、「じゃ、デート続き頑張ってね」などと空気の読めない ことを言って去っていく。 二人はもはやそれを否定する余力も残っていなかったので、ただただその後ろ姿を見送った。 上条(何だったんだあの人は) 考えてみたらあのプリント機やこの嘘発見器を導入する人間である。正直関わらない方が無難かもしれない。 美琴「ところでさ」 上条「ん?」 美琴「手、いつになったら離してくれるわけ?」 上条の右手はまだ美琴の左手首を掴んだままだ。その状態は店長以外が見ても恋人同士にしか見えないだろう。 上条「…………これからどうする?」 美琴「無視すんな」 上条「帰るとか言うなら、この手離さないのでよろしくです」 美琴「…………、え?」 上条「いやほら、展望台のチケット今日の夜12時までじゃねえか。俺とじゃ不満かもしれないけど今行くしかねえだろ? しかも1枚2000円てもったいなさ過ぎ。あと、お前へのお願いもゆっくり考えたいしな。オーケー?さぁ行くぞ」 美琴「えっ、ちょ、ちょっとー」 結局手は離さず、上条は美琴をエレベーターまで引っ張っていく。 悪い気はしなかったが、美琴はその不可解な上条の行動にひたすら混乱する。 12/24 PM11:09 曇り 最上階である42階に展望台はあった。 ガラスのような透明な板がドーム状に張られていて、上部は今空いている。真冬には寒々しい光景だが、暖房を入れ、空気を 上手く循環させているのかそこそこ暖かい。屋根の部分は10分もあれば閉じることが可能で、突発的な大雨でも降らない限り 快適である。今日はクリスマス仕様なのか、イルミネーションに彩られた15メートル程もある銀色の金属製ツリーや、星形の オブジェなどで彩られて、可愛らしくも幻想的な雰囲気になっていた。 上条(それにしても……………) その小さな体育館くらいある空間はパラパラと人が居たのだが、そのほとんどが恋人らしきカップルだった。 さすがにその空気に耐えきれず、エレベーターのある建物からその空間に入った後、数十秒ほどで上条は美琴の手を離してしまう。 二人はとりあえず人気の少ない場所を選び、手すりに寄りかかった。 今のお互いの距離は大体一人と半分ほど。 美琴「星、見えないわね。雪も降らないし」 そう言われて上条も見上げたが、確かに黒い雲が静かに空を覆っているだけだった。小さな光も、白い粉雪も見えない。 上条「星に関しちゃ、曇って無くてもあんま見えないんじゃねえか?」 下を除くと、学園都市が様々な人口の光に覆われていた。 時期的なせいか、所々ライトアップされていたりして中々綺麗だ。 美琴「この夜景全部消して、雲を寄せれば星見えるかしら」 上条「………だから、お前が言うと冗談に聞こえないからやめろって」 夜景はキラキラと綺麗なのに、二人の心の中は暗い。 美琴「で、お願いはどうする?」 上条「んー、そうだなぁ」 美琴「お願いを100個に増やしてくれーとかは無しね」 上条「言わねえよ!どこの小学生だよそれ」 美琴「アンタが幸福になるってことで、私が出来る範囲なら何でも良いわよ。変なこと以外で」 上条「変なことって?」 美琴「………そこにつっこむな馬鹿!」 上条「?」 美琴は思わず赤くなる。しかしこの暗さじゃ見えないだろう。 上条「幸せ……ねぇ。世界平和とか?」 美琴「真面目に考えなさいよ。さすがにちょっと荷が重いわ」 上条「ちょっとかよ!?………んー、じゃあ例えば今後一切俺にビリビリ攻撃しないってのは?」 美琴「却下。それかなり荷が重い」 上条「………………おい」 美琴「言われなくても今度から出来るだけ減らすわよ………漏電以外は」 上条「漏電はするってのか」 自分が幸せになる方法。上条はもうそれに気付いている。しかし、それが美琴の幸せに繋がるかは分からない。恐らく望み薄だ。 今ならあの時の偽海原の気持ちが解かる気がする。 これがロシアンルーレットだとすると、弾はどの程度の割合入っているのだろうか。いや、そもそもどうすれば当たりを 増やせるのだろうか。 上条(………無意味だな) いくら考えても所詮確率論でしかない。いつから自分はこんな弱くなったのだろうと上条は内心首をかしげる。 上条(うじうじ考えるのは性に合わねえな。こう言うのは女子の専売特許だ) このまま悩み続けることも、諦めることも無理に思われた。 美琴「何今にも死にそうな苦い顔して悩んでるのよ」 上条「え、んな顔してたか?………さっきの話だよ。俺が幸福になるお願いでお前が不幸になったら意味ねえなと思ってなー」 美琴は根っこのところでは優しいから、ひょっとしたら無理をするかもしれない。 そうして美琴が不幸になってしまったら、上条が幸福になることはまずできないだろう。 美琴「………アンタ、私に何させる気よ」 上条「いや、お前は何もしない。するのは多分俺だ」 美琴「何それ??つか、さっきから何度も言ってるけど、アンタは一人で悩みすぎなのよ。できるだけ何でも話しなさい。 それともアンタはまだ私を見くびってるわけ?もっとこの御坂美琴を信じろっての」 上条は返答しない。再び二人の間に沈黙が流れる。 ややあって、上条が一つ息を飲んだ。 上条「そうだな。決めた。いっちょお前を信じてみるか」 美琴「……………何?」 上条「でも、その前に、言っておきたいことがある」 上条は、まったく馬鹿げたことを考えているなと心の中で自嘲する。 ハズレが1つしか入っていないクジ引きでハズレを引くような自分が、アタリが1つしか入っていないクジ引きに手を出す ようなものだ。普段なら確実にそんなことはしようとしない。 でも、美琴が信じろと言ったのだ。今これを信じないなら、これから一切何も信じられなくなるような気がした。例えそれが 裏切られようとも。 だから上条は信じる。アタリが出ると。 その有り得ないことをしている自分が可笑しくなって、美琴を見つめながら少し笑みを浮かべる。 上条「俺さ、最近身近に、好きな人が居ることに気付いたんだ」 美琴「…………………………………え?」 美琴はその言葉に頭を思い切り殴られたかのような衝撃を受ける。自分が真っ直ぐ立っているかよく分からない。 美琴(………………………居たんだ。好きな人) 落ち着こうとしても体が熱くなり、高速で脈打つ自分の鼓動が聞こえる。目も耳もぼやけて、現実が妙に遠くなったかの ような感覚に陥る。 先程とは逆の立場。しかし美琴だって安易にそれが自分だなんて思えない。 これまでのことを考えると、上条が自分を好きだなんて到底思えない。一体それが自分である可能性はどのくらい残っている というのだろう。単純に確率で考えてみようと過去を振り返り、今まで上条のそばに居た女性を心の中で指折り数える。しかし それが一人、また一人増えるごとに自分の体が削られていくような感覚に襲われ、6、7人数えたところで断念してしまった。 膝が笑いだす。 美琴(で、でも、さっきこいつはクリスマスイブには好きな奴と過ごせって言ってたじゃない。なら……) 何でも良いからすがろうと、そんなことを考えてみるが、そもそも上条は最初に『皆忙しいから一人だ』と言っていたはずだ。 ならば好きな人がその中に含まれているかもしれないし、今ここにいるのも仕方なくなのかもしれないと考えてしまう。 思考の悪循環が止まらない。 今すぐここから逃げ出したくなる。 それでも美琴はその動揺を気取られたくなくて、どうにか斜め下を向き表情を隠す。 美琴「…………………………」 何か言おうとしたが、声が出ない。 上条「それで、そいつが誰か教えるから………その後にもし御坂が嫌じゃなかったら、そいつとの仲が上手くいくように手伝って 欲しい。もし嫌なら、綺麗さっぱり忘れてくれ。それがお願いだ」 美琴は体の震えを抑えるため、片手で強く自分の腕を抱く。 上条「……………ダメ、かな」 美琴「……………………………わか、わかんない」 ようやくそれだけ言ったが、声が震えているのを隠そうとしたため小声しか出ない。 本当に何も考えられない。出来ることなら耳を塞ぎたい。 上条「あ、さっきも言ったけどな、このことでお前を不幸にさせる気はサラサラねえからな!」 その言葉に、ようやく美琴は上条の顔を見る。 上条「お前もちったー俺を信じろよ」 美琴の体はまだ震えていたが、その言葉に心の奥底が少しだけ居心地良くなるのを感じた。 いつだったか、上条が不可能を可能にて絶望の中に居た自分を救ってくれた時のことを思い出す。あの上条が真剣な瞳で信じろと 言っているのだ、なら例え世界中の全員が信じるなと言ったとしても、自分だけはそれを信じる自信がある。 美琴「……………分かった。私も………アンタを………信じる」 上条「おっし!…………じゃー言うぞー」 上条は自分の中の恐怖をぬぐい去るためわざと軽く言う。 鼻で自然に息を吸い、口から細くゆっくりと全て息を吐き出す。 美琴「ちょっと待って!!」 上条「っ、…………なんだよ?」 美琴「こっち………ココ、ココで言って」 美琴はさっきよりまばらになった恋人達を更に避けて、人気の少ない中央近くにある金属製のクリスマスツリー下へと上条を 誘導する。いざというとき自分が暴走したらまずいので、そのための措置―――と自分に言い聞かせる。 上条「………良いか?」 美琴「待って!!」 少し速めの深呼吸を10回以上してから、上条を思い切り睨み付ける。そうでもしないと心が折れて今にも恐怖で泣きそうだった。 美琴「おっしゃこいやー!!」 上条「何でお前の方が緊張してるんだよ」 そう言って笑おうとした自分の顔がガッチガチになっていることに上条は気付いた。 腕が震えるのを抑えるために握り拳を作り強く握る。 どうやらお互い様のようだ。 上条(雪でも降れば雰囲気出て勢いで言えそうなのにな) そう思ったのが悪かったのかもしれない。 上条「ん?雪?」 顔に水滴が付いたような気がして、空を見上げる。 その次の瞬間、ザーーー!!と通り雨が上条と美琴に向かって降り注いだ。 わずか10秒ほどで二人はびしょ濡れになり、わずか20秒ほどでキャーキャーと恋人達が建物の中に逃げ込み、結果屋外には 二人だけが取り残された。 美琴「アンタ………天候まで操るってどんだけ不幸なのよ」 上条「お、おれのせいかよ!?」 言いがかりだ!とは思ったものの、過去に世界の破滅の危機まで招いたことがあるので、天候くらい朝飯前かもしれない。 上条「入るか?」 美琴「いい。このまま言って」 美琴はずっと表情を変えずに睨んだままだ。この状態を一旦崩されるのがきついのかもしれない。そして美琴の髪や顔も少し濡れているからか、妙に色っぽく見えてしまって、ゴクリと喉を鳴らす 上条「それじゃ言うぞ」 美琴が頷く。 上条「俺が好きなのは―――――」 言いながら、上条は異変を見た。 美琴が突然何かに気づき、慌てながら上条を突き飛ばす。そして両手を思い切り空へと突き上げる。 直後―――ズガン!!!!そう聞こえたのかも定かではない。それほどの何かが耳をつんざき、さらに目の前が一瞬光で真っ白 に変わる。上条は条件反射的に右手を前に出していた。しかし二人を襲ったソレに触れた瞬間、幻想殺しが効かない範疇の物 であることが解る。 上条(雷!?それも本物の!!) 直撃は美琴のおかげで回避できたものの、周りの物に反射した側撃雷が上条を襲い、激痛と共に筋肉が思うように動かなくなる。 結果、美琴に突き飛ばされた慣性のまま地面へ転がる。 さらに雷の影響で展望台の明かりが全て消え、視界を奪われる。 上条(御坂は!?) 激痛が走る筋肉を無理矢理動かし、美琴が居た方向を必死に見る。 ほとんど目が眩んで見えなかったが、美琴が無事であることくらいはなんとか分かる。表情が見えないのに、何故か泣きそう な顔で叫んでいるような気がした。 それらが全てスロー再生のように見える。 直後、上条はバキッバキッ!!!という、何かが壊れるような嫌な音がするのを微かに聞いた。 そうだ。雷は恐らく避雷針代わりになった美琴と、その隣の金属製ツリーに落ちたはずだ。 必至に目を凝らすと、太さ1メートルはあろうかという後ろの銀色のツリーが、ゆっくりと美琴の方へ倒れていくのが分かった。 上条「御坂、避けろ!!」 耳が狂っていて、きちんと叫べたかは分からない。それは美琴も同じようで全く聞こえていないようだ。何かを叫びながら ゆっくりとこちらに向かってくるのが分かる。このままだと尖った枝を纏う銀色のクリスマスツリーは、恐らく美琴を直撃するだろう。 上条は自分でも聞こえない何かを咆哮すると、激痛を全て無視して立ち上がる。 上条(はは。そうかよ) 叫んでいるのか、考えているだけなのかは分からない。 上条(俺を幸せにしようだなんて、無茶で優しいことを言う美琴を、神様《アンタ》は俺から奪おうってのか) 美琴へ向けて走り出す。 上条(いいぜ、神様《アンタ》がそんな可愛い美琴の幻想をぶち殺そうってなら―――――) 計ったようにツリーが美琴の頭の上めがけて落下し、枝の一本が美琴の頭を突き刺そうとする。 美琴は上条の方を見るばかりでそれに気付かない。 一瞬でも速くとそこへ駆ける。脚の筋肉が限界を超す。 上条(―――――俺が全身全霊で守り抜く!!!) ツリーが美琴の頭蓋骨を刺す寸前。驚いた顔をする美琴を思い切り抱きしめ、そのまま地面にダイブする。 直後ガギン!!!と言う金属が擦れる音を微かに聞いた。 二人は冷たい床に横たわり、徐々に耳が回復して土砂降りの雨の音が聞こえてくるのを感じていた。 美琴「…………………ねぇ」 上条「ん?」 美琴「何してんのよ」 上条「何って……あ、悪い。何か全く体動きそうにない」 思い切り抱きしめたままの腕は少しでも動かすと激痛が走った。冷たい雨に体力は奪われていくし、さっきの一連の緊張か、 今美琴を抱きしめているための緊張か心臓はバクバク言うし、さてどうしたものかと思案する。 美琴「そうじゃなくて、あの状況で何でアンタが下になってんのよ」 上条は地面に転がる寸前に体を捻り、美琴の体と頭を守るような体勢を取っていた。 おかげで上条の制服はドロドロのグチャグチャである。 上条「しょうがないだろ。咄嗟だったんだから」 美琴は上条の胸に頭を付けているため、上条からは表情が読み取れない。 美琴「でさ」 上条「ん?」 美琴「こんな酷い状況で聞くのもアレなんだけど…………アンタは今…………幸せなの?」 雷に打たれて、死にそうな目にあって、土砂降りの中で泥だらけになって地面に横たわり――――そして美琴を抱きしめている。 そんな酷い有様で上条は何の臆面もなく答える。 上条「ああ、すっげえ幸せだぞ」 言った瞬間、通り雨が嘘のように止んだ。 さすがにそれには上条も苦笑してしまう。 美琴「ッ!…………」 上条「どした?ぐあっ!」 顔を覗き込もうとした上条は顎に頭突きを食らう。 美琴「アンタ……グス…ちっとも……ヒック…私……」 美琴は嗚咽を漏らしながら泣きじゃくり出した。涙を上条の胸に擦りつける。 上条「何で泣くんだよ…………って、あー。もしかして聞こえたかアレ」 美琴「泣いてなんか、無いわよ!!聞こえなく……ヒック、たって……だいたい、分かるわよ」 あの瞬間。美琴が気にしていたのは自分の名前か、そうじゃないかだ。だから、口の動きを見てれば大体分かる。 とは言っても、あんな極限の状態で口の動きを読むなんてそうそう出来ることではないのだが。 上条「聞こえてはいなかったのか。んじゃもう一回言うぞ」 美琴「……うん」 上条「御坂美琴。俺はお前が好きだ」 美琴「うん………ヒック。わ、わた、私も…私も………ずっと………アンタが…」 上条「うん」 美琴「好きだった」 上条「……そっか」 その言葉を上条は噛みしめる。体の中が暖かい物で満たされる。 美琴「なのに、アンタは……ヒック、全然気付かなくて……ヒック」 上条「あー。なんつうか、それについては本当にすいませんでした」 もう答えは出た。上条は一つだけの幸福を手に出来たのだった。 思い起こせば全て辻褄が合う、本当は単純なことだったのかもしれない。 美琴「もう、ヒック、良いわよ………鈍感馬鹿!!」 上条「分かった。分かったから泣くのやめて顔上げろ」 美琴は再度上条の服に顔を擦りつけてから、顔を上げて上条を見た。まだ抱きしめられたままなので、ほとんど鼻と鼻がぶつかりそうな ほど近い。美琴の顔は泣いているせいか完全に真っ赤だった。 美琴「ねぇ………その、ほんとに私で、良いの?私、あんたがいっつも言うようにガキだし、すぐ電撃放つし…すぐ妬くし…怒りっぽいし…」 上条「お前じゃなきゃ嫌だっつの。お前が居てくれたら不幸になんかならないって、ずっとそばに居てくれたら幸せだろうな って、そう思った」 自分の幸福を願う人がそばに居る。それ以上の幸福があるだろうか。 美琴「じゃ、じゃぁ。もう逃げたりしない?」 上条「逃げないどころか逃げても追いかて逃さねぇから、覚悟しとけよ」 美琴「…………うん」 美琴は少しだけ笑った後、上条を数秒睨み付け、そっと目を閉じる。 上条(何でこんな無茶苦茶分かりやすいことに気付かなかったんだろうな俺は………) 幸福は、すぐ近くにあったのだ。 上条はもう間違わない。 目を閉じて、そっと首を伸ばし唇を唇に重ねる。柔らかな美琴の唇は冷え切っていて、少し震えていた。お互いを温めるかの ように静かに、長く、ケーキより甘く愛おしいキスをする。 途中でパチッと美琴から火花が散って上条は慌てて右手を頭にそっと置く。 上条(絶対に………離したくない) そして―――――上条の意識が落ちた。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/幸福の美琴サンタ
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/幸福の美琴サンタ 第1章 プレゼントの悩み 佐天「御坂さーん」 初春「こんにちわー」 美琴「ん?あ、二人とも久しぶり!」 佐天「お買い物ですか?あ、クリスマスプレゼントとか!」 12月25日の日中に皆でパーティーをしようという約束があった。 もちろん画策したのは黒子である。 美琴「え?う、うん。ままま、まぁね。あなたたちあてのは先週買っちゃったけどね」 初春「わぁぁ。セレブな御坂さんからプレゼントを貰えるだなんて感激です」 美琴「えっと……私のセンスにあまり期待しないでね。ははは……」 初春「そんな謙遜しないで下さいよー。私達は丁度さっき買ったところです」 袋詰めされた大きな荷物を掲げる初春。 佐天「あれ?てことは今選んでるのは白井さんあてですか?」 美琴「えっ?いや、黒子のも先週買っちゃったんだけど、今のは他の奴向けで……なんていうか、先々週から悩んでるんだけど 決まらなくてさ……」 佐天と初春が互いに顔を見合わせる。 佐天「誰あてなんですか?」 美琴「えっっ?あ、うんと……二人は多分知らない人。別にどうでも良い奴なんだけど、一応色々世話になったというか、 あげなくてもいい奴なんだけど……なんていうか、義理みたいなもので」 初春「は、はぁ。そんなに悩んでるんでしたら、及ばずながら私達も選ぶの手伝いましょうか?」 佐天「そうですよ御坂さん。セレブリティな物以外なら私達も協力できます」 美琴「ははは、そうね。さすがに私も悩みすぎて何が何だか分からなくなってきたところだから、助かるかも」 初春「決まりですね!それで、どんな方なんですか?」 美琴「へ?」 初春「贈り相手です」 美琴「………言わなきゃ……駄目、かな?」 初春「え?」 佐天「さすがに相手が分からないと………」 言いたくないのだろうか、と思いつつおずおずと佐天が言う。 初春「好みとかは分からないんですか?」 美琴(うーん……巨乳、は好きなのかな?ってこの場合関係無いか。食べ物は……よく分からないわね。服装はいつも適当だし ……あれ?もしかして私ってアイツのこと全然知らない!?) 頭を抱えて考え込む美琴。 佐天「いやいや初春。相手の好みって実際言われると中々分からないもんじゃん?」 初春「確かにそうですねー。あ、じゃぁ、特徴とかはどうです?」 『特徴』と聞かれて、美琴は目を閉じて再び考え込む。 美琴「………………………………………」 初春(あれ?何か御坂さん) 佐天(顔が真っ赤……?) 美琴「えっと、とりあえず馬鹿で鈍感な奴よ」 佐天「……ほ、他には?」 美琴「かっこつけで、見境無く他人の問題を勝手に解決しようとする……とか、自分を省みなさすぎるとか」 佐天「お節介な駄目人間ってことですか?」 美琴「え?違う違う、全然そんなことない!!アイツにも良いところはあるのよ。うんと、困った人を絶対見過ごさないとか、 意外としっかりしてるとか」 徐々に俯き、掛けていたマフラーの先を指で弄りはじめる。 美琴「誰とも分け隔て無く接するとか、私より強いとか……わた、私を守って……とか、真剣な目が……とか……」 何かゴニョゴニョ言いながら真っ赤になっていく。 それを見てさすがに二人は気付いた。 佐天「御坂さん、それってもしかして……ん?」 見ると初春が佐天の袖を引っ張り、少し頬を赤らめながら首を振っていた。 初春「分かりました御坂さん。もう少しで良いプレゼントが思いつきそうです」 美琴「ほ、ほんと!?」 パァッと美琴が笑顔になるのを見て、初春は若干心が痛む。 しかし今は心を鬼にしなければならない。 美琴とはそこそこの付き合いだ。「その人のことが好きなんですか!?」なんて聞いて、美琴が素直に答えるわけがないこと くらいは分かる。 初春「本当です。ですが、もう少し詳しく教えて頂きたいので、とりあえずどこか座りましょう」 初春の妙に真剣な眼差しに少したじろぎつつ、美琴は首を縦に振った。 ◆ 3人は別の階にある喫茶店で飲み物を買うと、その外側にある椅子に向かい合って座った。 時期のせいか喫茶店の中は喧噪にまみれていて、重要な話をする場に相応しくないと初春が判断したためだ。 初春「それでなんですが」 美琴「うん」 初春「どういう風に出会ったんですか?」 美琴「え?それって」 初春「重要なことです!」 初春の、さも重大そうな顔から逃れようと佐天の方を見ると、佐天も同様に重大そうな顔をして頷いていた。 美琴は諦めたように話し出す。 美琴「6月に……馬鹿な不良10人くらいが私に絡んでた時に…………」 佐天「時に?」 美琴「助け……ようとしてくれた」 初春「お強い方なんですか?」 美琴「ん?強い……かもしれないけど一応無能力者よ」 『見ず知らずの女性一人を助けるべく、10人くらいの不良相手に果敢に向かっていく無能力者』 佐天(そ、それって何て少女漫画?も、もう駄目初春。私顔がにやけるのを抑えきれない) と目で訴えつつ初春の背中をバシバシ叩く佐天。 初春(佐天さん我慢です我慢) などと目で返すが、二人の目尻はもう緩みきっている。 佐天「お、お二人の間で一番印象に残ってる出来事は何ですか?」 美琴「うーん。詳しいことは言えないんだけど、私が絶望の中にいた時に唯一アイツだけが気付いて、アイツだけが救い出し てくれたこと……かな」 佐天(うは~!ないそれ。や、妬ける!) 初春「年上なんですか?」 美琴「うん。高一」 初春(ですよねー。さすが御坂さん大人!) 佐天「て、手は繋いだんですか?」 美琴「えっと、どうなのかな、繋いだと言えば繋いだし……」 初春「身長はどのくらいですか?」 美琴「私より頭半分くらい高いかな?」 佐天「き、キスはしたんですか?」 初春(ちょ、佐天さん) 美琴「ふぇ?きき、キスだなんて、何で私がアイツと、そんなこと……」 佐天「してないんですか?」 美琴「………か、間接キスくらいは……ゴニョゴニョ」 再び俯いて真っ赤になる美琴。 初春(み、御坂さんが可愛い) 佐天(なんという純情さ) 美琴「って!これちょっとプレゼントの話とは違わないかしら」 佐天「え、えーそうですかー?」 初春「あ、御坂さんは今のところどんなプレゼントを考えたんですか?参考にしたいんですが」 美琴「そうねぇ…………まず、手袋はとりあえず却下」 初春「へ?どうしてですか?」 美琴「なんというか、諸事情により…………」 あの右手に手袋は色々まずいから、とは説明しにくい。 美琴「次に考えたのが、手編みのマフラー。実は途中まで作ってたんだけど…………」 佐天「やめたんですか?」 美琴「うん、諸事情により…………」 ふと気付いたら模様がハート柄になっていたとは口が裂けても言えない。 ちなみにとりあえず完成させている。 美琴「あとはセーターとか、手作りクッキーとかも似た理由により却下。他にも食べ物とか、救急セットとか、ゲコ太パジャマ とか、開運グッズとか、もうよく分からなくなっちゃって……」 初春「えーっと………とりあえず容姿はどういう風なんですか?誰かに似てるとか」 うーん。と美琴は考え込む。 美琴「説明するのが難しいわね。髪はツンツンしてて、体型は普通。顔は普通に卵形で、いつも不幸そうな表情をしてる……。 身長はさっきも言ったとおりで、多分171cmくらいかな?」 上条「168cmだぞ」 美琴「あ、そのくらいか……………も………………???」 美琴がギギギギとぎこちない動きで前を見ると、初春と佐天が二人仲良く両手で口を覆って驚いている。 目元がにやけていて頬が赤いのは気のせいだろうか。 再びグギギギギとぎこちない動きで後ろを振り返ると、噂の張本人がけだるそうに立っていた。 学生服なのは補習だろうか。 上条「いっつも不幸で悪かったな」 美琴は全力で顔を戻すと、膝を抱えて小刻みに震え出す。 佐天「ねぇねぇ初春。この人だよね、どう考えても」 初春「みたいですね。キャー超展開!」 小声で話しているが、二人はもう興奮で何が何だか分からなくなっている。 ふと目が合う。 初春「は、初めまして。私達、御坂さんのお友達をさせて頂いております。初春飾利と…」 佐天「さ、佐天涙子です」 初春・佐天「よろしくお願いします」 その馬鹿丁寧な自己紹介に、上条の口は「おっ」となる。 普通人で、かつ礼儀正しい人というのが周りにほとんど居ないせいか、こんなことにすら感動を覚えてしまう。 上条「ご、御丁寧にありがとうございます。俺は上条当麻という普通の高校生です。御坂とは………あれ?御坂、俺にとって お前って何だ?」 美琴「知らないわよ!自分で考えなさい。………ていうかアンタ、さっきの話、どどど、どこから聞いてたのよ」 上条「えーっと………俺は上条当麻という普通の高校生です。御坂とは」 美琴「だーーー!!それ以上言わなくて良いっつか無視すんなコラ!大体にしてアンタのどこが普通なのよ」 上条「別にいいだろ。良いだろ普通って!素晴らしいことじゃねぇか普通って!!」 美琴「何力説してんのよ!」 上条「……ああ、聞いてたのならツンツン頭がどうとかいうあたりだけど……お前いつまでそっぽ向いてんだ?」 美琴はそれを聞いて胸をなで下ろし、2回ほど静かに深呼吸した後振り返る。 何故かそれと同時に初春と佐天が顔を隠すように反対側を向いてしまったが、そんなことを気にする余裕は無い。 美琴「で、女子学生3人水入らずの所に何の用?」 さっき上条のことを話していた時とは打って変わった態度に初春と佐天が少し驚く。 上条「お前、いつだったか『用が無きゃ話しかけちゃ駄目なの?』って怒ったことありませんでしたっけ?」 美琴「う、うっさいわね!…………ってもしかして、ほんとに用事無いのに話しかけたの?」 用もないのに、女子中学生の輪に割って入るというのは、ただならない関係なんじゃないか?と考えて少し期待する。 上条「いや、用はあるんだけどな。ほら、俺の携帯未だにおかしくてさ-。この前の返事出せなかったから直接伝えようと思って」 美琴「……………で、何のメールよ」 少しガッカリしつつ、返ってこなかったメールを思い浮かべながらそう尋ねる。 上条「12月24日の予定について」 美琴「うっ!」 ちらりと初春と佐天の方を見ると、二人は直立不動でカチコチに固くなっていた。目は明後日の方を向いている。 美琴「そ、それで?」 上条「とりあず……あのメールは本気なんでせうか?それともからかってるんでせうか?」 美琴「は?」 上条「いや、ほら!あるじゃん!『クリスマスの予定ってあるの?』って質問に期待を込めて『無いよ』って答えたら 『やっぱりだろうと思ったキャハハー』っての!!こえぇ……女ってこえぇ!」 美琴「はぁ?」 上条「ああそうですよ、ありませんよ!土御門も青ピも何だかんだで予定あるって言うし、俺だけポッカリ状態ですよ!」 実は上条にクリスマスの約束を取り付けようとする攻防は裏であったのだが、上条の不幸体質が大活躍した結果、誰も予約を 取り付けられないという奇跡的状況に陥っていた。美琴のメールも同様の理由だろう。 ちなみに土御門と青髪ピアスは、「勝った。上やんの不幸がフラグ体質に勝った!」などと訳の分からないことを言って喜ん でいた。 美琴「ちょ、丁度良いわ。とあるレストランにクリスマス限定でゲコ太グッズプレゼントをやってるところがあるんだけど、 複数人限定らしいのよ。というわけで付き合ってもらうわよ」 早口でまくし立てる。 上条「………またそのパターンかよ。つか、そちらのお友達さんじゃ駄目なのか?」 美琴「あ……」 マズった!と美琴は心の中で叫ぶ。 確かにそういうキャンペーンをやるレストランはあった。あったというか全力で探した。 しかし残念ながら「男女のペア」とは書いていなかったのだ。 だからこそメールという、ツッコミが入れられにくい方法を取ったのだが…… 美琴「アンタは…………嫌なの?」 上条「そういう事じゃねえって、せっかくのクリスマスにグッズ目当てで俺なんかと居て良いのか?つってんの」 佐天(あ、鈍感だ) 初春(鈍感ですね) 美琴「……………………」 初春「わ、私達はその日ちょっと別の用事があるんですよ。ね!佐天さん」 佐天「え?……ああ、そうそう。そうなんですよ上条さん」 良いタイミングで初春が助け船を出す。 しかしどう考えても顔がにやけ状態であるため、端から見ると嘘がバレバレだ。 上条「ん、そうなの?なら仕方な……って、お前そんなに頼める人少ないのか?」 美琴「そういう訳じゃ…………………」 上条「?」 美琴「やっぱそうよね。アンタもクリスマスまで私に振り回されたくないか」 上条「……何勝手に自嘲してんだよ。う、嬉しいに決まってんだろ?そうなったら」 美琴「え?」 上条「聞き返すな馬鹿。で?ホントにいいのか俺で」 美琴「…………………………」 思いがけない展開に美琴が黙る。 美琴(これ、肯定したら色々やばいんじゃ……しかも初春さんと佐天さんの目の前で……ああもう!どうすればいいのよ。 どうすれば………って、ああああ、アンタ、そんな私をまじまじと見るんじゃないわよ。居心地よくなっちゃう じゃないのよー) 美琴「ふにゃー」 一瞬気付くのが遅かった。美琴から漏れた電撃は四方八方へ放たれる。 幸い近くに人は居なく、初春と佐天の前には上条が割り込んだ。 上条「お、お前なぁ!!」 美琴「……ごめん」 上条「誤る前に電撃止めろおおおおお!」 叫びつつ美琴の左手首を掴んで事なきを得る。 能力の暴発を友達の前でやってしまったせいか、美琴は恥ずかしそうに俯く。 しかし初春と佐天は一瞬の出来事にほとんどぽかんとしていた。 上条「ほんと見境無しかよ」 美琴「あ、アンタが変なこと聞くのが悪いんでしょ!」 悪態もいつもの勢いがない。 とりあえず右手をこうしてれば大丈夫か、と上条が少し安心しかけた次の瞬間、どこかで聞いたことのある警戒音が後ろで鳴った。 上条(こ、このパターンは……) 後ろを振り返ると、予想通り警備ロボが猛スピードで接近してくる。 上条「はははは……不幸だっ!」 言い終わる前に全速力で逃げ出す。右手は美琴の左手首を掴んだままだ。 振り返ると、一瞬遅れて初春と佐天も走り始めていた。 一応、人にも商品にも損害はなかったようなので、警備ロボが途中で諦めてくれるだろう……なんて期待を込めつつ走る。 ◆ 上条「はぁ……お前と居るといつもこんな感じな気がする」 とりあえず外へ出て、人気のない公園まで逃げまくった。 ベンチに腰を下ろすと、昨晩雪が降ったせいかズボンがグチョグチョに濡れてしまい、仕方なく再び立つ。いつも通り不幸だ。 美琴「……………………」 上条(あれ?ツッコミなしですか) 上条「それで、手離して大丈夫なのか?」 美琴「うん」 そっと手を離す。暴走は収まったようだ。 初春と佐天と離れてしまったが、美琴の携帯に大丈夫だというメールが来ていたのを二人で確認して安心する。 上条「それでどうすんの?」 美琴「んえ?」 上条「24日の話」 美琴「…………私は、アンタと一緒が良い」 走って疲れたためか、ずっと手を引っ張られていたおかげでぼーっとしているためか、美琴はあっさりそう言った。 上条「へ?」 そして逆に今度は上条が混乱する番だ。 上条(あれ?ナニコレオカシイゾ。俺なにか間違えた?いや、これは罠に違いない。違い……ない?) 美琴「ま、細かいことは気にしない!アンタはせいぜい美琴センセーを喜ばせるためにプレゼントを準備しておけば良いのよ!」 上条「ん?プレゼントならもう用意したけどな」 美琴「ッ!!??」 上条「お前多分、嬉しくて卒倒します。はい」 実はその事実だけで嬉しくて卒倒しそうだったりする。 上条「むしろその言葉、そっくりそのまま返してやろうじゃねえの」 美琴「………あ!」 上条「ん?どした?」 美琴は今更ながら、上条に渡すプレゼントをどうするか相談している途中だったことに気がついた。 美琴「ど、どうすりゃいいのよ………」 上条「だから何がだ?」 ―――聖夜まで、あと3日。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/幸福の美琴サンタ
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当麻と美琴の恋愛サイド 【本文】 ―幸福の美琴サンタ― ―帰省/家族(かぞくぶんのきせい)― 【著者】 寝てた人 ◆msxLT4LFwc氏 【初出】 2009/12/25 初投稿 2010/01/17 幸福の美琴サンタ編 完 2010/01/17 帰省/家族編 初投稿 【注意】 ベースは17巻あたりまで+レールガン漫画+レールガン小説 (帰省編第8章から20巻の内容に少しだけ触れます) 原作で描かれていない部分をさも事実かのように書いてますが、妄想なので気にしないで下さい 初春が3割増しでブラックです 当初1レスのつもりで書いたため序盤かなり適当です ルビは青空文庫仕様で《》で括っています 白井が地の文で黒子になってますがスルーして下さい 算用数字と漢数字のかき分けが出来てませんがご了承下さい ちなみに、まだまだ続けるつもりですが綺麗に終わらせるつもりは毛頭ありません たまーに後から気づいた間違いなど修正しています オリキャラ注意 長い 【簡単なあらすじ】 幸福の美琴サンタ編 +... どうにかクリスマスイブに上条と過ごす約束を取り付けた美琴は、散々悩んだ末に『上条を幸せにする』というプレゼントをすることにした。 一方上条は、普段とは違う美琴の事を意識し始める。 帰省/家族編 +... 年が明け、実家に帰省した上条は偶然にも(?)御坂母子と再会する。 さらに乙姫や詩菜も連れだって初詣に行くことになった。 他の三人とはぐれた上条と美琴はそこで上条の過去を知る男と遭遇。 その影響で美琴との関係を改めて考え直し出す上条。 そんな中、美琴の元に二人が付き合っているという噂が流れていると初春から電話が掛けられてきた。 - 【最終スレ投下日】 2013/12/15 .
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とある魔術の禁書目録 上条×美琴作品 発表日 タイトル メインキャラ 引用元 2011/02/15 上条「誰か御坂と恋人になってくんねーかな」 ② 上条当麻、御坂美琴、青髪ピアス、佐天涙子、初春飾利 ぷん太 戻る
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/御坂美琴の消失 第9章 「ハッ!」 上条当麻は思わず声を上げた。 なぜなら白井黒子へ伸ばしていたはずの『右手』が、何もない空間へと、天へと伸ばしていたからだ。 即座に、視線を下に向けてみた。 あれだけボロボロだった体には傷一つなかった。 ついでに言うなら着ている服も違っていた。 (…………そうか、『遡行の儀式』そのものは成功した、ってわけか…………) 静かな闇の中、上条当麻はどこか物静かに、しかし、物悲しげにギュッと右拳を握った。 悔しかった。 今の自分が無傷であることに怒りすら湧いた。 白井黒子の、全身から血を吹き出させ、最後は崩れ落ちていった姿が見えたというのに、自分が何もできなかったことが悔しくて腹立たしかった。 あれは必要なことだったとはいえ、それでも上条はやるせない気持ちに臍を噛んだ。 しかし、それはほんのわずかな時間。 上条は心を落ち着かせることにした。 これから、ここで起こること。 しかし、それを阻止すること。 それが上条当麻の使命だ。 命がけで送り出してくれた白井黒子。 自身の消滅さえも厭わなかった一方通行。 『姉』を取り戻したいと懇願してきた御坂妹。 必ず帰ると約束したインデックス。 四人の思いに報いるために今やることは、己の不甲斐なさを嘆くことではない。 上条当麻は息を殺してその時を待つ。 正確な時間までは正直、分からないが、この闇が晴れる前に必ず『犯人』が行動を起こすその時が来るのを待つ。 上条同様、『遡行の儀式』という魔術を行使して、この時間に来ているはずの『犯人』が動き出すのを待ち続ける。 もし『犯人が行動を起こさない』なら、それはすでに『終わった後』ということになる。 できるなら上条は、そのようになることを望んでいた。 それならば、上条は『この時の上条当麻』がいつ、目覚めるかをだいたい分かっているので、その直前に行動を起こせばいいだけだからだ。 なぜ、上条は『犯人が行動を起こした後』、すなわち『犯人がすでに世界を変えた後』を望むのか。 それは、上条の優しさだった。 できるなら、犯人は何も知らないままで、元の時間に戻ってほしいのだ。 『遡行の儀式』のルール通り、ここで何をしたかを『忘れて』戻ってほしいのだ。 しかし、そうならない。 不幸体質の上条当麻が望むことは大抵裏切られてしまう。 (…………来たか…………) 上条は心の中で呟いた。いや、正確には嘆いた。 結局はこうなるのかと心苦しくなった。 それでも、犯人を見逃すわけにはいかない。犯人の行動を阻止しなければならない。 そうでなければ白井に、一方通行に、御坂妹に、インデックスに申し訳が立たないからだ。 変えられた世界を元に戻すと言った上条に、文字通り『自身の命をかけて』協力してくれた四人に失礼だからだ。 物音を立てず、そっと立ち上がる。 闇の向こうではかさかさという音が、おそらくは眠っていたなら聞こえないであろうほどの小さな音が響いていた。 全神経を尖らせていた上条だからこそ聞こえたと言えるほどの小さな音が鳴り響いた。 息を殺して、そのまま音のした方へと向かう。 そして――――― 「やっぱり、お前の仕業だったんだな…………」 声をかけられた相手は絶句して、即座に振り向いた。 上条は、闇に紛れている人物を見とめて、どこか、もの悲しげな視線を送っていた。 そして、静かに、ゆっくり歩みを進める。 相手は、突然の展開にその場を動けないようだった。 今回の御坂美琴消失事件の犯人。 いや、犯人と呼んでもいいものかどうか。 なぜなら、この人物はそこまで考えていなかったはずだからだ。 己の行動が、人の生死に関わるほど、未来を変えるなど想像だにしていなかったはずだからだ。 不意に部屋の中に月の光が差し込んできた。 柔らかく部屋の中に自然の、しかし、やや薄暗い明りが灯る。 しかし、その人物を浮かび上がらせるには充分だった。 「インデックス…………」 上条は静かにその名前を呟いた。 その口調には怒りはまったくない。あるのは虚しさだけだ。 白い太ももを露わにしたYシャツ一枚に見えるその姿はどこか扇情的に映ったが、今の上条に下世話な気持ちは露ほども湧かなかった。 「一番、最初に気付くべきだったよ…………俺の財布に『二千円札』が残っていたときにさ…………」 場所は八月二十日の丑三つ時の上条当麻の部屋だった。 「数日前にお前に話したことが仇になっちまってたとはな…………」 だから、上条当麻に怒りは湧かない。 上条自身が己の、軽率とは言えないが、あの時の発言が今回の事件を引き起こしてしまったからだ。 数日前。 上条は、美琴との関係について、しつこく問い詰めてくるインデックスに、つい美琴との出会いからこれまでを詳細に話してしまっていた。 何でも無い、単なるケンカ友達で気の合う女友達、そう言っても信じてもらえなかったから。 詳細に話すことで、自分の言葉に嘘がないことを証明したかったから。 時は八月二十日、場所は自販機のある公園。『二千円札』を自販機に飲み込まれて、難儀していたところに声をかけられた。 美琴との関係が始まりを告げたのはこの出会いからだったというところから話した。 そう、たったこれだけで二人は出会ったのだ。 しかし、その『二千円札』が無ければ、上条当麻と御坂美琴が出会うことはなかったのだ。 なぜなら、上条当麻に七月二十八日以前の記憶はない。 御坂美琴と本当に初めて出会った六月中旬の記憶、そしてその後の勝負という名のケンカの数々、 この記憶が、上条には『無い』のだ。 美琴の方から声をかけてこない限り、『再会』という名の『出会い』の可能性はなかったのだ。 もし、自販機に硬貨を滑り込ませることができたなら。 もし、自販機に『千円札』を入れることができたなら。 上条は、ぼやくことも声を上げることも無く、ジュースを持って自販機を離れていったか、財布に中身が無ければ諦めたか、しただろう。 美琴は、上条の声に気付くことなく、上条がいなくなった自販機に蹴りを入れていたことだろう。 『二千円札』だったからこそ、呑まれてしまったのだ。 それが上条を自販機の前に必要以上の時間で立ち止まらせたのだ。 だから、インデックスは過去に遡り、『八月十九日から八月二十日の寝静まった時間』に上条の財布の中から『二千円札』を抜いた。 上条が起きてくる前に、『八月二十日に持っていく』財布の中に『二千円札』を置かなかった。 この日以外で『上条当麻の財布の中に二千円札が残っている日』を知らなかったから。 確実に、美琴と出会う日であることを知っていたから。 御坂美琴と上条当麻の出会いを導いた、たった一つの手段『二千円札』。 しかし、その『二千円札』が無かったばっかりに、二人は出会わなかったのだ。 翌日に二人は会っているが、あれは上条から声をかけたからだ。 上条と美琴が出会っていなければ、上条は飛空船を眺める美琴の背後を歩くだけに終わっている。 美琴は、前日のショックと思いつめた気持ちで周りに気を配ることなどできないほど追いつめられている。 だから互いに視線を合わせない限りすれ違うだけで終わる。 妹達と美琴は公園で出会う。美琴が公園に行った段階でそれは必然となる。 妹達は公園の一角で子猫に気付いたから必ず出会う。 公園の一角で美琴が子猫を愛でている妹達を必ず見つける。 だから美琴と妹達は出会うのだ。 しかし、上条と美琴は『二千円札の事件』が無ければお互いに気付くことはなかった。 あれば、笑い話ですまされた『二千円札』なのに。 わずか数分、いや、もしかしたら一分にも満たなかったかもしれない時間なのに。 この出会いが無かったばかりに、結果、上条当麻はその世界がどうなったかを知っている。 このインデックスが『知らない』世界の顛末を知っている。 四ヶ月後のインデックスが、自身の行動を『覚えていなかった』のは『遡行の儀式』のためだった。 『過去の意識』と『現在の意識』を入れ替えて時間を遡る『遡行の儀式』では、『変えられた世界=過去の意識』の延長線上に『現在の意識』があるからだ。 だからこそ、インデックスは上条当麻に『遡行の儀式』のことを何の躊躇も憂いも後ろめたさもなく詳細に伝えることができたのだ。 「とうま……どうしてここに…………」 か細いインデックスの声。 もちろん、このインデックスは上条当麻がなぜ、この場にいるのかを分かっている。 もちろん、このインデックスは上条当麻がどうやってこの場に現れたのかを知っている。 にも拘らずインデックスは問いかける。 「お前を――――止めに来た」 予想通りの答えだった。 そして、言ってほしくない答えだった。 「とうま…………」 だから、インデックスはうな垂れる。 だから、インデックスは伏せ目になる。 「お前の気持ちに気付かなかった俺の責任だからだ」 上条は答えた。 「本当に……私の気持ちに気付いているのかな…………?」 「…………それは分からねえ……けど、お前が寂しい思いをしていた、って気持ちに気付いてやれなかったのは俺の責任だ」 「…………………」 上条とインデックスの間に沈黙が訪れる。 気まずいというよりは重いという沈黙が。 今にも泣き出しそうな表情を浮かべるインデックスに上条は、いつの間にか怒りを感じていた。 御坂美琴が殺されて。 御坂妹が嘆き悲しんでいて。 一方通行が孤独のどん底まで堕とされてしまっていて。 白井黒子は、己の存在さえも否定して。 それは、世界的に見ればわずか四人しかいない変化かもしれない。 例え、御坂美琴がいなくとも世界はそこまで変化しないとしても。 それでも、居るべき人物がいない世界の悲しさを生み出したインデックスに上条は怒りを感じていた。 正確には、インデックスをそうさせてしまった自分に怒りを感じていた。 そう。 インデックスは寂しかったのだ。それも気が狂いそうになるくらい寂しかったのだ。 一年と半年以上前の記憶が無いインデックスにとって、上条当麻はすべてだった。 今でこそ、魔術サイドにも科学サイドにも『友人』と呼べる存在は多々いるが、それでもそれはすべて上条当麻によってもたらされたものであることをインデックスは分かっているのだ。 だからこそ。 インデックスは上条当麻の傍に居たがる。 インデックスは上条当麻の傍から離れられない。 そんな純真で真っ白で穢れを知らない気持ちが。 上条当麻を一人占めしたいではなく、上条当麻と一緒にいたい、ただそれだけの思いのために起こった今回の事件だったのだ。 極寒の北極海から戻ってきて以来、 上条当麻の、自分よりも御坂美琴を優先させているような行動が、心に深く突き刺さってしまっていたのだ。 御坂美琴の、彼女だけが自ら上条当麻を誘い、またそれに乗る上条の行動に恐怖を感じてしまっていたのだ。 だからこそ。 インデックスは、『八月二十日に上条と美琴が出会っていない』世界を作ろうとしたのである。 まさかそれが、御坂美琴の命を奪うなどとは微塵も思ってもいなかったにも拘らず。 仮に、八月二十一日以後も、美琴が生きていたとしても、『妹達の一件』が無ければ美琴はそこまで上条を意識することはない。なぜなら、七月二十日に会って以来、二人は一ヶ月以上も会っておらず、また、この間、美琴は、幻想御手を皮切りに、テレスティーナや相園美央など結構、ハードな戦いをこなしていて、しかも、その時は、上条には一切頼ろうとしなかったことからも、妹達の事件まで、上条を当てにしている以前に、その存在すら片隅にも無かった節があって、しかも、美琴の認識としても上条は『何が何でも勝ちたいケンカ友達』でしかなかった。 そして、海原光貴=エツァリが御坂美琴に近づいた元々の理由は『上条当麻の知り合い』が前提なので、一ヶ月以上も顔を合わせていない人物をマークするはずもないから『八月三十一日』の恋人ごっこもなく、『九月一日に出会う』としても、妹達の一件がない限り、美琴が上条を異性として見ている可能性は低いと言えるので、上条とインデックスが絡み合って倒れていようが、白井同様、『どうでもいい顔』をしたことだろう。 ゆえに、上条当麻と御坂美琴が『八月二十日に出会わない』限り、インデックスの憂いはあり得ないと言えた。 (くそったれ…………) 上条は臍を噛みながら心の中で呟く。 こんなインデックスの表情を見せられて、 こんなインデックスの気持ちを見せられて、 上条の心が揺れる。 インデックスが変革した世界と元の世界。 どちらが正しい世界なのか、心が揺れる。 客観的に考えれば、 冷静に見つめれば、 それは間違いなく元の世界だ。 たった一人の我が侭で構築された世界などあってはならないのだ。 しかし、である。 では、インデックスが変革した世界にどんな不備があった? 確かに御坂美琴はいない。 では、その他は? 一方通行は前人未到のレベル6に到達していた。 白井黒子は八人目のレベル5に進化していた。 御坂妹は、軍事利用されることなく『普通の人間』としての扱いを受けていた。御坂妹が常盤台の学生寮にいたのはそれが理由だった。 それは悪いことなのか? 美琴が居ない悲しみを背負っていたが、それは人として生きていく限り、決して逃れることができない運命であり、同時に時間が解決してくれることでもあるのだ。 上条と出会うまでは孤独だった一方通行だって、これからは上条が友人になってやれば済むことだ。 そして、周りの世界は何一つ変わっていなかった。上条が関わったイベントは全てクリアされていた。 おそらく、元の世界で知り合った友人知人は、インデックスが変革した世界でも知り合っていることだろう。 どこに不備がある? 上条の心は揺れる。 インデックスは上条がこの場に現れるであろうことが『分かっていながら』世界を変革した。 魔術による世界構築なら、上条当麻には作用しないことを『分かっていながら』だ。 つまり、それは上条当麻に『最初から』選択権を委ねていたのだ。 元の世界とインデックスが変革した世界、どちらがいいか選んでほしいというシナリオだったのだ。 そこで、上条当麻は自分に問いかける。 自分はどう考えていたんだ、と。 元の世界を、正確に言えば『御坂美琴がいる世界』をどう思っていたんだ、と。 間違いなく美琴は頼りになる。戦闘力はもちろん、記憶喪失であることを知っていながら、それでも上条の味方になってくれる唯一の奴だってことは確かだ。 しかし、それは戦場での話だ。インデックスが変革した世界でも代替は居た話だ。 では普段はどうだった? 美琴に事ある度に因縁をふっかけられて追いかけまわされて、無理矢理付き合わせられたことがほとんどだった日常をどう思っていた? 上条は反芻して、 うんざりだ。 いい加減にしろ。 アホか。 そろそろ付き合い切れねえぞ。 浮かんだ単語はこれらだったのだが、 (………………本当にそうか?) 上条の心がじくりと痛む。 心ならずも面倒ごとを持ちかけられる美琴とのイベント。それを嫌々付き合ってやる心優しい年上のお兄さん。それが上条当麻のスタンスだったはずだ。 はずだったのだ。 上条当麻は自分に問いかける。 いいか、俺、重要な問題だから心して聞け、そして答えろと自分自身に言い聞かせて問いかける。 ――――そんな御坂美琴との邂逅を、お前は楽しいと思わなかったのか? 答えろ。考えろ。 心の内からそんな声が聞こえてくる。 本音を言ってみろよ、という声が聞こえてくる。 御坂に付き合わされて何があった? 電撃付きの追いかけっこに、ウザったい勝負という名のケンカの連戦、窃盗の片棒を担がされて、恋人ごっこを強要されて、アステカの魔術師からは命を狙われて、大覇星祭で無理矢理借りモノ競走で走らされて、罰ゲームに付き合わされて、御坂の後輩・白井黒子には後頭部にドロップキックをかまされて、毎回毎回インデックスには咀嚼される始末。 うんざりでいい加減にしてほしくてアホかと思って付き合い切れない、か―――はん、そうかい。なら、お前はこう思っているんだな。 ――――こんなもん、全然面白くねえぜ。 上条の内なる声が。 もう一人の上条の声が心に言い募ってくる。 そうだろ? そういうことになるじゃないか。お前が真実、御坂をウザイと感じて、突っかかって来る御坂の全てが鬱陶しいんだとしたら、お前はそれを面白いなどとは思わないはずだよな? 違うとは言わせねえぞ。明らかだろうが。 しかし、お前は楽しんでいた。お前は御坂と一緒にいることが楽しかったんだよ。 なぜかと言うか? 教えてやるよ。 ――――お前は白井の問いに真実を答えたじゃないか。 世界をこのままにするか元に戻すかの選択肢、白井が聞いてきた御坂美琴の上条当麻人物評。 白井黒子から聞いたか、御坂美琴から聞いたか。 その問いに、お前は『白井黒子から聞いた』を選んだんだ。 だろうが。 せっかくインデックスが御坂のいない平穏で、ともすれば何人かは前の世界よりも良い待遇になってる世界に変革してくれたってのに、お前はそれを否定したんだ。 八月二十日に御坂と出会って以来、何度も何度も因縁をふっかけられてきた鬱陶しい世界の方をお前は肯定したんだよ。 御坂と顔を合わせれば、ほとんど、ケンカを売られたり電撃を浴びせられたり厄介事を持ちかけられたりした世界に戻りたいと思ったんだよ。 何でだおい? お前はいつも御坂と関わることを避けようとしてきたじゃないか、御坂と出会った己の不幸を嘆いていたじゃないか。 だったらよ。白井の問いに「御坂から聞いた」って言えば良かったんだよ。嘘を吐き続けたっていいじゃないか。御坂がいなくても、一方通行や御坂妹、白井黒子とは知り合いになれるし、お前と御坂妹が間に立てば一方通行にだって友達ができる世界で生活できたんだ。 そこでは、一方通行は前人未到のレベル6に到達していて、白井黒子は八人目のレベル5に進化していて、御坂妹は軍事利用されることなく『普通の少女』として生活できて、そしてインデックスは寂しさを感じることも世界を変えようなどと大それたことを思うこともなくお前の傍にいられる世界だったんだぞ。 そう言った別の日常をお前は放棄したんだ。 もう一人の上条当麻が上条当麻の心に語り続ける最中、不意に上条は闇に包まれた改札口に立っていた自分に気が付いた。 進むか引き返すか。 その境界線に立っていた。 「…………!」 つい、と腕の裾が引っ張られている。 一度、ハッとした上条ではあったが、摘まんでいる相手は誰か分かっている。 声をかけてはこないが誰なのかを分かっている。 振り向かなくても誰なのかを分かっている。 引き留めているのが誰なのかを分かっている。 心細く、しかし、精いっぱいの勇気を振り絞っている思いがそこから伝わってくる。 一瞬、闇の中に冷たい風が吹いた気がした。 一瞬、雪がちらついたような気がした。 しかし、再び心の声が聞こえてくる。一時の感情で判断するなという含みを持って。 いいか。俺はお前の気持ちに聞いている。 言っておくが、白井黒子、一方通行、御坂妹が嘆き悲しんでいたから、とか言い訳するんじゃないぞ。 それだったら、時間遡行してまで、しかも危険を冒してまで御坂美琴を取り戻そうとする理由にならないし、第一、世界を元に戻すよう協力要請したのはお前の方だ。 そうだろうが。お前は今まで、自分の命よりも他人の命を優先してきたから自覚はないかもしれないが、御坂美琴が鬱陶しいなら、御坂美琴を慕い寵愛する白井に全てを任せてしまえば良かったはずなのに、お前は『自分の意思』で御坂美琴を助け出すことを選んだんだ。 それは何故だ? 上条当麻の内なる声が上条当麻の心に訴えかけてくる。 後頭部を誰かに強引に踏みつけられて力づくで押さえつけられたような気がした。 もう一度訊くぞ。これで最後だ。 お前は御坂美琴に絡まれる日常を楽しいと思ってたんじゃないのか? 言えよ。 「――――当たり前だ」 上条当麻は答えた。 無理矢理、顔を上げ、己を押さえつけてくる『自分自身』にはっきりと答えるために力づくで立ち上がろうとする。 「楽しかったに決まってるじゃねえか。解り切ったことを訊いてくるな!」 上条が心の内で吼えた刹那、自分を踏みつけていた自分はガラスが割れたような乾いていてなおかつ澄んだ音を立てて砕け散った。 同時に、上条の腕の袖を摘まんでいた手も振りほどいて、改札の向こうへと進む。 生まれつき、幻想殺しの所為で不幸を背負って生きている俺に所構わずちょっかいかけてくる女だぞ。 記憶喪失であることを知っていて、それでも、おそらくは記憶喪失前と同じ対応をしてくれる女だぞ。 不幸体質の俺に、インデックスを含めても他にはいない、『自分から』声をかけてきてくれる女だぞ。 そんな女の子が気にならないと言ったら嘘になるに決まっているだろう。 だからこそ、俺はこの場にいる。 こればっかりは『不幸だから』で切り捨てられないことだ。 御坂美琴だけは『不幸だから』で遠ざけたくない存在なんだ。 だからこそ―――― 気がつけば目の前に無言で佇む御坂美琴がいた。 場所は、美琴と『初めて』出会った自販機の前だった。 もちろん、現実ではなく上条の心の中だ。 不意に二人を柔らかい日差しが照らしてきた。 まるで上条のもやもやした心を晴れやかにするかのように。 上条は、インデックスが変革した世界を否定したのではなく、御坂美琴のいない世界を否定したのだ。 どこか、心がすっとした気がした。 上条当麻の腹は決まった。 「インデックス。俺は元の世界の方がいい。みんながいてみんなが笑ってみんなが馬鹿やっている世界、そこには御坂だって含まれる。俺はそのためにここに来た」 インデックスを真っ直ぐ見つめて。 真摯な瞳で、 上条当麻はインデックスにきっぱりと優しく宣言する。 「とうま…………」 「だから、その『二千円札』を財布に戻すんだ。それですべてが元通りになる」 「…………………」 「心配すんな。こういうことをしたからって俺は別にお前を嫌いになったりなんかしないし、これまで通り、一緒に暮らすこともやめない。お前が俺のことを嫌いにならない限り、俺からお前を追い出すようなことは絶対にしない」 言って、にかっと笑う上条。 「ズルイんだよ…………」 インデックスは右手に持っている『二千円札』を左手に持っている『財布』に戻そうとして、 「…………そんな顔で言われたら、とうまの言うことを聞かない訳にはいかないかも…………」 インデックスの瞳から一滴、涙が落ちる。 しかし、それは悲しみの涙ではない。 「でも、とうま約束して…………」 「ん?」 「いつの日か…………とうまは、短髪か私を選ぶ日が必ず来る…………今のとうまじゃ意味が分からないかもしれないけど…………そんなに遠くない将来、この言葉の意味が分かる日が必ず来るから…………」 インデックスは、ぐっと前を向いた。 まだ涙目ではあったが、それでも強い意志が宿った瞳で上条を見据えた。 「どんな選択だとしても、私と短髪、二人とも納得させられる答えを見せるんだよ。じゃないと私も短髪もとうまを絶対に許さないかも」 インデックスの問いかけに、上条は、確かにインデックスの言った通りで意味が少し分からないので、ちょっと苦笑を浮かべて頷きかけようとして、 それに気付いたのは『背中にいきなり走った灼熱感』からだった。 「…………がっ!?」 突然の『熱さ』に上条は背中に『右手』を当ててしゃがみ込む。 しかし、『右手』を持ってしてもこの灼熱感は消えない。 「まったく……あれほどインデックスを泣かせるな、と言ってあったのに、何をやっているのかな? きみは」 と同時に聞こえてくる声。 ついさっきまで後ろにあった気配が、今はすぐ目の前にある。 無理矢理、顔を上げてみれば、そこにいたのは、赤髪長髪で顔にバーコードを付けて煙草をふかしている長身の黒い神父だった。 「て、てめえ……どうしてここに…………?」 「んー……決まっているだろ。インデックスに協力するためさ」 「なん、だと…………?」 「忘れたのかい? インデックスは魔術を使えない。ならば、どうしてそのインデックスが『遡行の儀式』を遂行できたのか。答えは『協力者がいた』以外ないと思うが」 ステイル=マグヌスの興味なさそうな説明を聞いて、上条はインデックスを見やった。 ステイルの後ろにいるインデックスは、ステイルの行動に驚いて声を失っているようだった。 まさか、上条に切りつけるとは思ってもみなかったのだろう。 「僕ときみはこの時期に『三沢塾』の一件を片付けた。なら、『この日』に『僕』が学園都市にいてもおかしくないはずなんだけど…………きみは忘れていたのかい?」 言って、無造作に『炎の剣』を下段に構えるステイル。 しかし、上条当麻は一撃目のダメージが思っている以上に大きく、ガクガクして体が動かない。 「何、心配することはない。この炎の剣では肉体に損傷を与えることはできないよ。単に『意識を飛ばす』だけのものだ。まあ、一撃で仕留めたかったんだけど、インデックスの手前、あまりきみを無碍にできないところもあってね。ちゃんと説明してから『元の時間』に戻してあげよう、そう思ったんだ」 (くそったれ……それで、意識が遠くなってきやがるのか……マズイ……今のまま、元の時間に戻ったら…………) そう。今度は上条当麻自身も『変換された時間の流れ』に呑み込まれてしまう。 なぜなら、ここにいる上条当麻は『意識』を『この時間の上条当麻』と交換している存在だからだ。 元々、『御坂美琴のいない世界』から八月二十一日にタイムスリップしたので、『遡行の儀式』のルール通り、四ヶ月先からこの世界と意識交換したことになるから。 『意識』には『幻想殺し』は作用しないのだ。 ゆえに今、意識を失うのは絶対にマズイ。 もしかしたらステイルの舌先三寸で再び、インデックスが財布から『二千円札』を抜きとる可能性があり、しかも、それは『確認できない』のだ。 「では、とどめといこうかな? 先に四ヶ月後に行っているといい」 「くっ…………」 ステイルが無造作に近づけるのは、上条が身動きできないからだ。 もう右手を翳すことができないからだ。 しかも、上条の意識がどんどん遠のいていく。 (や、やば…………) ステイルが振りかぶる。 「インデックスが作った世界を否定するなど僕が許さない」 静かに呟いて、 炎の刃が振り下ろされて―――― 刹那、上条の頬をなでて閃光が走る! 「何っ!?」 ステイルが驚愕の声を上げると同時に、閃光が炎の刃を粉砕した。 (な、何だ…………?) 薄れゆく意識の中、上条は必死に覚醒しようとした。 混濁した意識の中、目の前に、ベージュのブレザーとチェックの入ったプリーツスカートを翻す少女が、肩までの長さの亜麻色の髪が上条の前に飛び出してきた勢いで揺らいでいたのが見えた。 (だ、誰だ…………?) 心の内だけで呟くと、今度は、首筋に走る衝撃。 そして、 「すまねえな。正確な時間を忘れちまったんであてずっぽうに飛んだんだがどうやら間に合ってよかったぜ。だから気にするな。俺もヤバいと思ったさ。まあ後のことは俺たちがなんとかする。いや、どうにかなることはもう分かっているんだ。お前にもいずれ解る。だから今は安心して眠れ」 (何だ? 誰だ? どうなってるんだ?) 上条は朦朧とする中、恐れ慄いた表情を浮かべるステイルと、今にも泣きそうなインデックスの顔と、全身を火花でスパークさせている快活そうな少女と、その隣に並んで立ったツインテールの少女が見えた気がして―――― そのまま、上条当麻は気を失った。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/御坂美琴の消失